《☆~ バゲット三世の訪問(二) ~》
本日は七日周期の三つ目、森林の日である。
特に背の高い木が集まってできている樹林を「森林」と表記するけれど、樹林と同じように「フォレスト」と読むので、これらの使い分けを意識する者は極めて少数である。そもそも、一般の庶民には字の読み書きができない者も多く、どちらでもよい些細な違いでしかない。
人族の暦数学者などには、古くから受け継いできた細かい考え方を大切にして守りたがる者が少なからずおり、一ヶ月に四度繰り返す七日周期のうちで最終にくる森林の日、つまり月の第二十四日だけを「森林の日」と書いて、それ以外は「樹林の日」と書くようにしている。
理由は、人族の間で大昔から、この日が泰然と静かに広がっている森林の如く、とても穏やかな日和になると言い伝えられてきたことにある。そこから転じて、国家間の話し合いなど、穏便に済むことが望ましいような行事には、いわゆる「持ってこい」と呼ぶのにふさわしい日取りだとされている。尤も、現代では「そのような言い伝えは単なる迷信で、ただ形式的にそうしているに過ぎない」と思っている者も多い。
兎も角、皇国宮廷では古い格式を守ろうとするので、この通例に従い、パンゲア帝国王との会談日として、今日が選ばれることになった。
人族や、魔女族など亜人類が刻限を知る方法は二つある。
一つ目は、時を操る刻魔法を使える月系統の魔女族に教えて貰うこと。彼女たちの中でも特に優秀な魔女なら、一つ刻を百二十もの細かい分割で、今がいくつ刻からどれだけの分刻が過ぎているのかを、正確に感知できるのである。
もう一つは、素材に水晶を使った錬金術の調合で造り出される「刻限計」という玉を見ることである。刻限に応じて色が半刻ごとに変化するので、その玉を見るだけで、今現在が、いくつ刻に近いのかを知ることができる。変化する色の数は十二種あって、例えば灰色だと、新しい日の始まる刻限である零つ刻、あるいは日の最も高くなる六つ刻に近い。灰色が薄い赤色に変われば、零つ刻半か六つ刻半に移りつつあることが分かる仕組みになっている。この刻限計は、魔女族に教えて貰うより精度が大きく落ちるけれど、それでも日常の生活においては、あまり大きな不便を感じることはない。
こちらはローラシア皇国の中央門である。
たった今、刻限計が灰色から薄い赤色に変化した。つまり、六つ刻から四半刻が過ぎたことを意味している。
ここへ立派な体格をした人族の男性が、堅固な鎧で覆われているかのように、およそ三千人からなる衛兵団に守られながら到着した。とても煌びやかで豪奢な衣を身体に纏った、見るからに凛々しい雄姿であるけれど、顔の大部分を布で覆い隠しているため、どれくらいの年齢なのかはもちろんのこと、どのような表情をしているのか、それすら想像しにくい。
果たして本当にバゲット三世その人であるのか、真偽を知る者は、おそらく本人とパンゲア帝国の数少ない高官だけに違いない。
多勢の衛兵団は門の中へ入らせて貰えないので、明日まで外で待機しなければならない。夜には、また近くで野営をすることになる。




