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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART3 白馬ファルキリーの騒動》白馬ファルキリーを巡る争い
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《☆~ バゲット三世の訪問(一) ~》

 昔からグレート‐ローラシア大陸では、各国が互いに牽制し合ったり、時には関係悪化が肥大化して、ついには戦争を起こしたりしてきた。

 国で最高の立場にある統治者の皇帝陛下や国王が他国を訪問するというのは、今でも極めて稀なことである。特に、これまで多くの戦争を引き起こしたパンゲア帝国は、九百年の歴史を持っているけれど、国王が他国を訪問することは過去に一度すらなかった。

 ところが先日、そのような帝国から、ローラシアの皇帝陛下と高等宮廷官たちを驚かせる親書が届けられた。

 親書には、パンゲア帝国の当代国王、バゲット三世がローラシア皇国を訪問して皇帝陛下と対談したい考えがあるといった内容が記されているのだった。パンゲアとローラシアの両国が結んでいる軍事同盟の関係を、今後どう維持してゆくのかについて、話し合いたいということ。

 しかしながら、パンゲア帝国が悪い企みを用意しているのではないかという懸念を抱く者が多数いるのだった。オイルレーズンも、その一人である。


「パンゲア帝国王なぞ、こちらへやってくる訳ないわい」

「え、そうしますと、訪問がなくなりますのね?」

「いいや違う」

「え、違いますの!?」

「別者がきよるのじゃよ。バゲット三世の顔なぞ、誰も知らぬからのう」


 国の統治者は威厳を示すために、肖像画を作らせて国内各所に掲示している。

 たいていは実際と違っているところが多い。なるべく立派に見えるよう、本人よりも少なからず勇ましい姿に描かれるからである。

 けれども、まったくの別人に見えてしまうほどの描き方は、望ましくないとされている。


「バゲット三世は、いつも顔のほとんどを布で覆い隠して、誰にも見られぬようにしておるらしい。そればかりか、たとい王妃と会う時ですら、居室を暗くするという用心ぶりなのじゃ」

「まあ、ずいぶんと変わったことをなさるものです」

「肖像画にしても、大きく異なる別者の姿が描かれておるじゃろう」

「では、その絵に描かれたお方が、代わりにこられるのですか?」

「おそらく、そういうことじゃな」


 オイルレーズンは、バゲット三世を装う「替え玉(スタンド・イン)」がローラシア皇国へやってきて皇帝陛下と対談するつもりなのだろうと考えている。

 そのように手の込んだ策をろうするパンゲア帝国王とは一体どのような人物なのだろうかと、キャロリーヌは考えざるを得なかった。実の父親であると知ってしまっているのだから、それは無理もないこと。


 ・   ・  ・


 パンゲア帝国王、バゲット三世の訪問が、いよいよ明日となった。

 これは、ローラシア皇国が数年ぶりに行う大きな催事だけれど、栄養官たちがなんらかの役目を担っている訳ではなく、オイルレーズンの集団パーティに属するキャロリーヌたち面子フェイスは探索任務に出掛けた。行き先として選んだのはトリガラ魔窟である。竜編りゅうあみ笠茸がさだけを採集することが第一の目的である。

 逆に、バゲット三世を迎えて接待する係の者たちは、準備のために忙しい。

 それでも実際に応対するのは、皇帝陛下の他、一等の政策官と管理官、および宮廷からは退いているけれど相談役の立場にある重鎮、シャルバート‐スプーンフィード伯爵の三人だけである。

 大事変を引き起こしてしまった、あの立食会と同じような惨事を繰り返さないために、今回は飲食物の類を提供しないことに決まった。そのお陰があって、調理官たちは、皆が気を楽にしていられるのだった。

 まずは帝国王のバゲット三世に先んじて、二十人からなる衛兵がローラシア皇国の宮廷に到着した。彼らの役目は、王が宿泊することになる迎賓室の安全を下調べしておくこと。

 バゲット三世は、極めて豪奢な馬車に乗り、ゆるりとこちらへ向かって進みつつある。今夜は宿屋などに泊まったりせず、開けた野原の真ん中に移動式の住居を設置しての野営になる。それが国外での、最も安全な一夜の過ごし方である。

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