《★~ 業火の日(三) ~》
朝食も終わって、オイルレーズンが、キャロリーヌと男性二人に話す。
「少しばかり考えたのじゃが、それで今日の予定は変更することにしたわい。あたしとキャロルは、探索任務に出掛けるから、お前たち二人は、誰か別の者と調理実習に臨むがよい」
「へぇ??」
「そんなあ!」
ラビオリとビートは落胆している。この二人とも、自身の邪まな計画を老魔女に見破られ、一喝されたことで、心への衝撃を受け、さらにもう一つ追加で痛手を負ってしまった。
しかしながら、これは自業自得だった。キャロリーヌと一緒に実習する機会を逃したことを大きく悔やむ男たちなのである。
そんな彼らを残して、先に女性二人が食堂を出ることにする。
オイルレーズンは専用の宮廷官居室に戻り、白頭鷲のシルキーに、マトンたちへ向けた伝書を託す。予定していた本日の探索任務は、刻限を変更して四つ刻に出立するのだと知らせるためである。
一方、キャロリーヌも出掛ける準備をするために、休憩居室へ向かう。
その途中で、うしろから呼び止められた。居室仲間の三人、キルシュ、ホッティ、ケールである。
「四等管理官さん。あなた、先ほどはキュラソー男爵家、そしてボルシチ男爵家、両家のご子息からチヤホヤとされまして、大変よろしゅうございましたね」
「いいえ。そのような浅薄の類ではなく、実習任務のことで、お二人より個別のお誘いがあっただけにございます」
キャロリーヌは、返答しながら昨夜の話を思い出す。
目の前にいるホッティ‐マサラの母親が、先日亡くなったというロッソの母親、ビアンカ‐ヴィニガの親友だったということ。
今度は、キルシュが話し掛けてくる。
「求婚がどうとかいう会話では、ありませんでしたかしら」
「ええ、確かにそうでしたわ。二等管理官さまが、そういうお言葉を少し仰いましたの。ですけれども、ボルシチ三等管理官さまたち、お二人が求婚についてお話しになったのではありません。オイルレーズン女史のなさったのは、あくまで例えば、というお話でしたの」
「あらそう。でも私たちは、公爵家を受け継ぐだとか、そのようなお話を真剣に、なされておられるのかと思いましたよ」
このキルシュと、ホッティ、ケールは三人で、キャロリーヌたちが陣取っていた卓の近い場所で、会話の一部始終を聞いていたのである。
「お家を継ぐといった意味での、真剣なお話ではありませんでした」
「本当に?」
「はい」
「そういうことでしたら、お二人とも、ご安心できますわね」
「ええそう。ラビオリさんと、こちらの四等さんとでは不釣り合いですし」
「私も、これで安心しましたわ。ビートさんだって同じように、キャロリーヌ嬢には、もったいないほどの殿方ですもの。うふふ」
ホッティとケールの表情が、少しばかり柔らかくなるのだった。
「あたくしは、探索任務へ出掛けるための準備がありますので、これにて失礼させて頂きます。よろしくて?」
「ええ、もちろんよくってよ。四等探索者さんは、獣のお婿さまでも、しっかりお探しになるといいわ。おっほほほ」
「獣のお婿さまですって。ふふっ」
「あらまあ野蛮なこと。うふふふ」
三人が意識的に発する笑い声と意地の悪い眼差しを、背中に浴びるのだった。
それでもキャロリーヌは、心の障りとならないよう気を強く持ち、しっかりした足取りで、急ぎ休憩居室へと向かう。




