《★~ 業火の日(一) ~》
七日周期の一つ目、業火の日の朝を迎え、キャロリーヌとオイルレーズンが宮廷にやってきた。
三つ刻半である。今朝もまた、宮廷官食堂で簡素な朝食を摂る。
キャロリーヌたちが陣取った卓の前に、麺麭と野菜汁を載せたお盆を手にした若い人族の男性が現れ、朝の挨拶を済ませた上で、「こちらの椅子を使っても問題ありませんか」と言って、同席を求めてきた。
「空いておるのじゃから、遠慮なく座るがよい」
「はい、そうさせて貰います」
二十二歳の三等管理官、名前はラビオリ‐キュラソーである。
若い男は卓にお盆を置いてから、静かに着席した。
「時に、マカロニ殿は息災かのう」
「はい。お陰さまで、父はいつも元気にしております」
「そうか。この前も、赤葡萄果汁を贈って貰ったわい。味も抜群で、かたじけないことじゃよ。ふぁっははは」
「お喜び頂けましたようで、なによりのことです。昨年は、特に品質の高い赤葡萄が、例年以上に多く収穫できたらしく、果汁の瓶詰品は素晴らしい上物となり、評判が竜登りの勢いです」
ラビオリの父親、マカロニ‐キュラソー男爵は、二ヶ月前に自ら宮廷官職を辞することに決め、この春、母親の実家にある果実農園の経営を引き継いだ。
昨夜、オイルレーズンたちが口にした赤葡萄果汁は、その農園で製造している上物だということ。
「あと二年ほど続ければ、竜誉章を得るはず。惜しいものじゃのう」
「いえ、父は自身の名声などに、少しも興味がないようですから。今は、葡萄の評判を上げるために、とても気を配っているようですけれど。ははは」
オイルレーズンが言ったのは、「二等竜誉章」のことで、それは二等の宮廷官を十五年勤めた者に対し、皇帝陛下が認めた場合に授与される勲章である。
調理官として、マカロニの業績は優れており、あのまま続けていれば、叙勲は確実だと思えるのである。
「あたくしの父を、よく助けてくれたそうですわね?」
「いいえ、そんな。ボクの父の方こそ、メルフィル公爵には、大変お世話になっていたのです。それで先日、父と会った時に公爵殿が既にお亡くなりだと伝えましたところ、とても悲しみ、嘆いておりましたよ」
マカロニは、パンゲア帝国皇太子が変死することになった、あの立食会での担当調理官には含まれていない。そのため、グリルを含む三十一人が官職を剥がれることになった後も、宮廷内で働いていた。
けれどもこの春、ローラシア皇帝陛下の生前退位を聞き及んだマカロニは、その後を追うような形で、自身で退官を決めたのである。彼は、皇帝陛下暗殺という真実を知らずに、隠居生活を送っている。
そして同じくこの春、キュラソー家の次男であるラビオリも進退を決し、三等の調理官から管理官に鞍替えした。目的は栄養官になること。
この独身男の他にも、調理官だけでなく政策官や医療官からも、栄養官を目指すことにした若い者が、総勢で四十三名いる。
彼らが抜けて生じる欠員を埋めるために、この春から高級官の四等という新しい等級が加えられた。
「キャロリーヌ嬢、本日は、六つ刻まで調理実習の任務ですよね」
「はい。仰る通りです」
「このボクと、どうか一緒に、その実習に臨んで貰いたいと願っているのです。どうでしょうか」
「あたくしと?」
ラビオリの言っている調理実習は、栄養官になるための任務の一つ。
それは人族向けの調理について学ぶのではなく、竜族の栄養状態を管理するための料理法を会得する訓練なのである。
「そうなのです。是非あなたと、今日の実習を!」
「おやまあ、あたしゃ邪魔者になるかのう?」
「あっ、いえいえ、とんでもありません! オイルレーズン女史もよろしければ、この三人で実習というのはどうでしょうか」
突如、ラビオリの背後から声が掛かってくる。
「抜け駆けとは、よくないねえ」
「な!?」
「あら、ボルシチ三等管理官さま」
現れた二人目の男は、二十三歳で独身の貴族、ビート‐ボルシチだった。
この者も、ラビオリたちと同様、管理官に鞍替えした四十三名に含まれる、ボルシチ男爵家の三男坊である。




