《★~ ロッソの告白(一) ~》
キャロリーヌたちが中央門のところまで帰ってきた。
マトンが、いつものように「宮廷門までお送りします」と申し出たけれど、オイルレーズンがそれを断り、ここから男性と女性は別行動になる。
「戦利品を、俺たち二人でせしめちまってよろしいんですかい?」
ヒエイーの中腹で仕留めた暗碧大狼を解体して食べた際に、残った牙と骨と毛皮を、ショコラビスケが大きな背袋に収まるだけ入れて持ち帰ってきた。それの扱いを決めようというのである。
「背骨の塊を二つだけ貰っておこうかのう。料理に使えるじゃろうから。残りは売るなり食うなり、好きにするがよい。ふぁっはは」
「へいへい、承知ですぜ!」
骨の塊は一つでも重いので、ショコラビスケが、それをオイルレーズンの箒柄に紐で縛りつけることにした。もう一つをマトンが受け取り、キャロリーヌの持つ柄に縛ってくれる。
それから別れの挨拶を済ませ、キャロリーヌとオイルレーズンは、骨つきの箒柄を杖のように立てて歩きながら、皇国宮廷内の管理官事務所に向かう。
二人は、本日の職務について勤務日誌を書かなければならない。
「探索任務は、失敗でしょうか?」
「いいや違う。目的は十分に達成できたからのう」
「討伐が、少しもできませんでしたのに?」
「キャロルには討伐そのものより、今日のうちに箒柄を操れるようになったことが、まず一つ大きな成果じゃった。そればかりか、探索者にとって最も大切な心構えがなんであるか、肌身に沁みる如く理解できたじゃろう。これこそ一番の成果と言えよう。ふぁっははは!」
「はい」
本日は、狂暴な大狼に向かって飛び出すという、とても無茶なことをしでかすキャロリーヌだった。
怪我の功名とでも言うべきか、結果として、探索者にとって第一に必要なのは生きて戻ってくることであると、それを単なる知識として覚えるだけでなく、身体で直に経験できたのも事実である。
「もう一つ想定外じゃったが、ドリンク軍の動向を知り得た」
「ジャムサブレーさんとも、お会いできましたわ」
「ふむ。それも予期せぬ収穫じゃったのう。ふぁっはっは!」
世間は広いようで、案外狭いのかもしれない。
オイルレーズンにとって、ジャムサブレーは親類である。古くからの友人、ホイップサブレーと今度会う時にする話の種が一つ増えた。
・ ・ ・
キャロリーヌたちは勤務日誌を書き終えて、官舎へと帰る。
道の途中で、見覚えのある女性が唐突に姿を現した。
「あなたはロッソ‐ヴィニガさん」
「昨日はどうも失礼致しました」
「いいえ。それはそうと、お母さまのお加減はいかがでしょうか?」
「昨晩遅く、息を引き取りました」
「なんとまあ、お気の毒です。心よりお悔やみ申し上げますわ」
「ご丁寧にどうも」
「それで、お弔いは?」
「今日の昼間に済ませました」
「そうでしたか……」
キャロリーヌは、オイルレーズンにロッソを紹介しようと思った。
「あの、二等管理官さま。こちらは、かつて三等調理官として、あたくしの父を助けてお働きになっておられました、ビアンカ‐ヴィニガさんというお方の、娘さんなのです」
「お初にお目に掛かります。ロッソ‐ヴィニガと申します」
「ふむ。子爵家のヴィニガじゃな。あたしゃオイルレーズン、死に損ない魔女のババアじゃよ。ふぁっははは!」
「オイルレーズン女史のお噂は予予、聞き及んでおります。グレート‐ローラシア大陸で一、二を争うほど優秀な魔女族でいらっしゃるとか」
「昔の大袈裟な称号じゃわい。それより、このあたしからも一つ、鎮魂の言葉を送らせて貰おうかのう。ビアンカさんよ、安らかにと」
「ありがとうございます」
オイルレーズンが黙祷をするので、キャロリーヌもそれに倣った。
少しして、目を開いたキャロリーヌが、ロッソに問い掛ける。
「昨日はなにか、このあたくしにお話があるご様子でしたけれど、もし、このあとよろしかったら、宮廷官舎へいらして下さるかしら?」
「ご迷惑と、なりませんようでしたら」
「是非、お越しになって下さい。細やかながら夕餉を、ご一緒に召し上がって頂こうと思いますわ」
「まあ、ありがたいお誘いです。せっかくのご厚意ですから、そのお言葉に甘えさせて貰いましょうか」
こうしてキャロリーヌたち三人は、宮廷官舎に向かうことになる。




