表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART2 栄養官になるための試練》栄養官としての使命と困難
77/438

《☆~ ドリンク軍務省のパイク(二) ~》

 パイクは、道の途中、スピアの訓練をしている歩兵部隊に近寄る。兵員は、すべて小妖魔である。


「おいミキサー、取り立てて木登りを得意とするガイはいるか? 誰か二人に、今からオレの手伝いをさせたい」

「はっ、承知であります!」


 この槍部隊で隊長リーダの任にある一等兵員、ミキサーが、威勢のよい言葉を馬上のパイクに返し、加えて丁寧な敬礼もする。

 それからすぐに回れ右をし、やや遠くへ向けて大声を出す。


「おおーい、バルサミコ、ケチャプ、ちょっとこい! 駆け足だ!」

「あーい、急ぎ参りやんす!」

「了解してござーい!」


 呼ばれた若者たち二人が叫び返し、全速力で駆けてくる。

 彼ら、小妖魔というのは、成長し切った個体でも、平均的な人族の成人男性と比較すると、体重は半分くらいで、小柄な亜人類である。ただ、俊敏な動きを得意にしており、運動神経のよさという点では人族より勝る者が多い。その中でも優秀かつ真面目ならば、こうしてドリンク軍務省に採用されて、兵員として働ける。

 槍部隊に属しているバルサミコとケチャプも、もちろんのこと大人ではあるけれど、頭部の天辺トプは、背の高いパイクの胸よりも、まだ少しばかり下に位置することだろう。

 隊長が、やってきた兵員たちに、キビキビとした態度で命じる。


「お前ら、第二大隊長官(キャプテン)からの特別任務だ。まずはご挨拶をしろ。そして、パイク長官の後に続き、ご指示に従え」

「おいら、バルサミコ四等兵員でありやんす。どこへでも参りやんす!」

「ケチャプ五等兵員でござい! あっしもお供を奉ってござーい!」

「よおし。では走ってついてこい!」


 パイクは黒いお馬、漆黒(ブラック‐)竜号ドラゴン早駆キャンタで進ませ、少女が落下した広葉樹林まで一直線に向かう。墜落の位置を正確に掴んでいるのだった。

 早駆くらいの速さなら、バルサミコとケチャプは、余裕を持って追うことができるはず。


 ・   ・  ・


 高い樹木の真ん中辺り、少女が木製の柄を握ったまま、太い枝に支えられる形で留まっている。

 この木のすぐ下に、たった今、黒馬に乗った第二大隊長官と、お供をする兵員二人が辿り着いた。


「お前たち、あれが見えるな」

「あい! 人族か魔女族らしい女が、枝に引っ掛かっておりやんす」

「あっしにも見えてござい。ありゃあ、ちっとも動こうとしませんで」

「そうだな。気絶しておるのだろう。二人で登って、あの女を降ろせ」

「落っことしちまいやんす?」

「それはよくないぞ。怪我をさせてしまうではないか。このロウプを使え」


 パイクは背負っている道具袋から取り出した綱の束を、バルサミコに渡す。


「よいか。胴体に結んで、ゆっくり吊るしながら降ろせ。あの女に、掠り傷の一つでも負わせたら、承知しないぞ」

「了解でやんす!」

「あっしもでござーい!」


 バルサミコは、受け取った綱の束を肩に掛け、落とさないように、念のため一方の端を口に咥える。

 こうして小妖魔たち二人は、目の前の木を、まるで猿と同じくらい俊敏に登り始めた。

 命令を与えたパイクは、お馬の上で、ただ悠々と待つだけでよい。

 ここにようやく赤い牝馬が到着した。

 馬上の魔女族が話し掛ける。


「わざわざ兵員たちを登らせずとも、相手が気絶しておるのなら、私の魔法で、容易く降ろせるものを。ほほ」

「いや、あれはあれで立派な訓練になっているのだ。魔女の力を借りずに、任務をこなせてこその兵員だからなあ。わはは!」

「左様にございますか」


 魔女族は、また苦い表情をする。

 しかしながら、パイクが彼女の顔を見ることはなく、双眼鏡を使い、木を登る兵員たちの動きを黙って追うだけである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ