《☆~ ドリンク軍務省のパイク(二) ~》
パイクは、道の途中、槍の訓練をしている歩兵部隊に近寄る。兵員は、すべて小妖魔である。
「おいミキサー、取り立てて木登りを得意とする奴はいるか? 誰か二人に、今からオレの手伝いをさせたい」
「はっ、承知であります!」
この槍部隊で隊長の任にある一等兵員、ミキサーが、威勢のよい言葉を馬上のパイクに返し、加えて丁寧な敬礼もする。
それからすぐに回れ右をし、やや遠くへ向けて大声を出す。
「おおーい、バルサミコ、ケチャプ、ちょっとこい! 駆け足だ!」
「あーい、急ぎ参りやんす!」
「了解してござーい!」
呼ばれた若者たち二人が叫び返し、全速力で駆けてくる。
彼ら、小妖魔というのは、成長し切った個体でも、平均的な人族の成人男性と比較すると、体重は半分くらいで、小柄な亜人類である。ただ、俊敏な動きを得意にしており、運動神経のよさという点では人族より勝る者が多い。その中でも優秀かつ真面目ならば、こうしてドリンク軍務省に採用されて、兵員として働ける。
槍部隊に属しているバルサミコとケチャプも、もちろんのこと大人ではあるけれど、頭部の天辺は、背の高いパイクの胸よりも、まだ少しばかり下に位置することだろう。
隊長が、やってきた兵員たちに、キビキビとした態度で命じる。
「お前ら、第二大隊長官からの特別任務だ。まずはご挨拶をしろ。そして、パイク長官の後に続き、ご指示に従え」
「おいら、バルサミコ四等兵員でありやんす。どこへでも参りやんす!」
「ケチャプ五等兵員でござい! あっしもお供を奉ってござーい!」
「よおし。では走ってついてこい!」
パイクは黒いお馬、漆黒竜号を早駆で進ませ、少女が落下した広葉樹林まで一直線に向かう。墜落の位置を正確に掴んでいるのだった。
早駆くらいの速さなら、バルサミコとケチャプは、余裕を持って追うことができるはず。
・ ・ ・
高い樹木の真ん中辺り、少女が木製の柄を握ったまま、太い枝に支えられる形で留まっている。
この木のすぐ下に、たった今、黒馬に乗った第二大隊長官と、お供をする兵員二人が辿り着いた。
「お前たち、あれが見えるな」
「あい! 人族か魔女族らしい女が、枝に引っ掛かっておりやんす」
「あっしにも見えてござい。ありゃあ、ちっとも動こうとしませんで」
「そうだな。気絶しておるのだろう。二人で登って、あの女を降ろせ」
「落っことしちまいやんす?」
「それはよくないぞ。怪我をさせてしまうではないか。この綱を使え」
パイクは背負っている道具袋から取り出した綱の束を、バルサミコに渡す。
「よいか。胴体に結んで、ゆっくり吊るしながら降ろせ。あの女に、掠り傷の一つでも負わせたら、承知しないぞ」
「了解でやんす!」
「あっしもでござーい!」
バルサミコは、受け取った綱の束を肩に掛け、落とさないように、念のため一方の端を口に咥える。
こうして小妖魔たち二人は、目の前の木を、まるで猿と同じくらい俊敏に登り始めた。
命令を与えたパイクは、お馬の上で、ただ悠々と待つだけでよい。
ここにようやく赤い牝馬が到着した。
馬上の魔女族が話し掛ける。
「わざわざ兵員たちを登らせずとも、相手が気絶しておるのなら、私の魔法で、容易く降ろせるものを。ほほ」
「いや、あれはあれで立派な訓練になっているのだ。魔女の力を借りずに、任務をこなせてこその兵員だからなあ。わはは!」
「左様にございますか」
魔女族は、また苦い表情をする。
しかしながら、パイクが彼女の顔を見ることはなく、双眼鏡を使い、木を登る兵員たちの動きを黙って追うだけである。




