表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART2 栄養官になるための試練》栄養官としての使命と困難
76/438

《☆~ ドリンク軍務省のパイク(一) ~》

 ローラシア皇国の南に位置するドリンク民国は、数百年という永い期間、絶対君主である国王に統治される「ドリンク王国」であり続けた。

 ところが、今から二十年ほど前に、王族による政治体制と貴族制の完全撤廃を実現することにより、少なくとも形の上では、いわゆる「民主国家」へと、大きく変貌を遂げた。

 同じグレート‐ローラシア大陸にある他の三国と違って特徴的なのは、人族だけでなく、四つの亜人類に属する誰であっても、希望する者には国籍が与えられ、晴れてドリンク民国人になれること。ただしその場合、「ドリンク民国憲法」に従うことを宣誓しなければならない。

 これまで通りに無国籍の亜人類として、どこの国の領土でもない辺境の地で生きてゆくか、それとも、国家に帰属して、文化的ではあるけれど、多少の不自由を我慢する生活を営むか、どちらでも好きに選ぶことが可能である。

 そんな現在のドリンク民国には、六つの省、内務省、外務省、保全省、生活省、軍務省、国民省、および四つの庁、選挙庁、環境庁、東部庁、西部庁が行政組織として構成されている。このうち軍務省が、当然のこと軍事を担当する。


 ヒエイー山の南西はドリンク民国の領土で、こちら側の斜面が険しい崖になっているお陰で、天然の要害として、古くから有効に活用されてきた。

 それは今も変わっておらず、近年では、軍務省の兵員たちが頻繁にやってきて軍事演習を行う現場フィールドとして使われることになった。

 今日もまたドリンク軍の第二大隊が、この辺り一帯に集結して、訓練に明け暮れている。ただ、いつもと異なるのは、環境庁で副長官(サブキャプテン)の地位にある女性が、赤毛の牝馬に乗って同行していること。

 彼女のすぐ近くに、黒いお馬の背の上で、双眼鏡を使って周囲の偵察を行っている人族の男がいる。パイク‐プレイトという名前の第二大隊長官(キャプテン)である。

 そのパイクが双眼鏡から目を離すことなく、女性に話し掛けてきた。


「環境の副長官(サブキャップ)、向こうに見える樹林フォレストに、女が墜落しているようだ。木製の柄らしいものを握ってやがる。たぶん、あんたが施した対魔法(アンチスペル‐)遮蔽シールドに引っ掛かった魔女族だろうよ」

「おほほ。箒柄ブルームとはね。してその者は、どのような?」

「かなり若いように、思えるがなあ」

「私よりも?」


 この副長官は生後二十四年、魔女年齢が八十歳であり、平均寿命がおよそ三百歳の魔女族としては、十分に若い亜人類なのである。


「そうだ。あれは若いというより子供に近い」

「少女ということ?」

「だな。捕縛するかい」

「そうね。貴殿の部下を三人ほどで向かわせて貰えるかしら。私の部下も、一人つけましょう。たとい相手が少女でも、魔女族に油断は大敵ですからね」

「オレも行ってみる」

「酔狂な。おほほ」

「そこで笑っていろ。オレもそろそろ三十路を迎える独身男だからな。これが、なにかの縁でないとも限らない」

「私では、いけませんか?」

「仕事仲間でないのなら、真剣に考えてもよかった。わっははは!」


 パイクは豪快に笑いながら、漆黒(ブラック‐)竜号ドラゴンという名を自らが与えた黒いお馬を駆って、颯爽とヒエイー山の麓に広がっている広葉樹林へ向かう。


「私の部下をつけると言ったのに。本当、あの人は……」


 魔女は苦い表情をしながら呟いた。


「さあ行こうか、ストローベリ!」

「ヒヒィーン!」


 赤の牝馬を早駆キャンタで優雅に走らせ、黒馬で先駆けたパイクを追うことにする。この魔女は、あの第二大隊長官から直々に与えて貰っている真紅(レッド‐)鮫号シャークという()()()()()で、自身の愛馬を呼んだことは一度すらないのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ