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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART2 栄養官になるための試練》栄養官としての使命と困難
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《☆~ 険しい崖を下ること ~》

 オイルレーズンは、目の前で呆然としたまま突っ立っている男二人に向かって、先ほどキャロリーヌが見舞われた悪い事態について、簡潔に話す。

 説明を聞いたことで、男たちにも、少女の身になにが起こったのか、おおよそ理解できた。

 それでようやく、マトンが口を動かすことになる。


「普通に判断すると、この高さから真っ逆さまに落ちて地面に激突した場合、状況は、かなり厳しいね。けれども、女史の話だと、飛行フライトの制御ができないながらもキャロルは箒柄ブルームを握ったまま降下したということだ。それならば、軟ら(ソフト)かに着陸(‐ランディング)するのでは?」


 対魔法(アンチスペル‐)遮蔽シールドは、魔法の効果を弱める魔法であって、魔法を無効化キャンセルするものではない。

 だから、キャロリーヌが手にしている箒柄は、まともな飛行ができなくなったとしても、少なからず()()()()()()という効果を残している。つまり、身一つで崖から転落するのとは、状況が大きく異なる。このように、マトンは楽観的な推測をした。

 しかしながら、オイルレーズンの考えは、少しばかり違っている。


「それは、あのの手が、柄を離さなかった場合のことじゃ。気を失いでもして、手の力が緩んだのなら、最早どうしようもないわい……」

「それもその通り。うぅーん」


 肩を落とすオイルレーズンとマトンの頭上から、ショコラビスケが、不意に大きな声を掛ける。


首領キャプテン!」

「なっ、なんじゃな!?」

「俺には、難しい理屈なんてえのは、てんで分かりゃしねえのですがね。今は思案投げ首で時間を使うより、この崖をさっさと下って、窮地にあるキャロリーヌさんを救いましょうぜ!」

「ショコラや」

「へい?」

「この険しい崖を下ることが、できるものかのう」

「やったことはねえですが、首領とマトンさんに、その覚悟があるのでしたら、お二人を肩に担いで、こんな崖なんぞ軽々駆け下りてみせますぜ。がほほ~」


 自信に満ち溢れた顔のショコラビスケである。

 これに対して、マトンが異議を唱える。


「僕は遠慮するよ。いくら屈強な竜族だからって、二人の大人を担ぐのじゃ負担が大きい。肩の荷が軽ければ、いっそう安全なはずだからね」

「それじゃ、マトンさんは一人、ここに残るのですかい?」

「いやあ、確かに険しい崖だけれど、鍛え抜いたマトン‐ストロガノフの軽快な駿足でなら、下って下れないことはないはず。ショコラの後に続いて、僕もやってみせよう」

「ふむ。ならばショコラや、積み荷は、年季の入った泥塗れの背袋リュックと、死に損ない魔女のババア、この二つだけで頼もうかのう?」

「へいへい、必ずや無事に、崖下までお運び致しますぜ! がっほほ!」


 ショコラビスケは、片腕で老魔女の身体を軽々と持ち上げ、右肩に乗せる。


「そんじゃ行きます! しっかり掴まってて下せえよお!」


 オイルレーズンが、箒柄を右手に握り締めたまま、左手を使って竜族の太い首に強く抱きつく。

 準備が万端となったことを確認したショコラビスケは、少しの躊躇逡巡ヘズィテイションすら見せることなく、険しく切り立っている崖の下に向かって、一気に駆け出す。


「やれやれ。勢いに任せて、ああは言ったものの、参ったなあ。この広い世の中、あんな怖いもの知らずより怖い者は、滅多にいなかったねえ。まあ、この僕自身も同様、その中の一人だけれど」


 マトンも意を決し、竜族の進む後を追って崖を駆け下りるのだった。

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