《★~ 未熟な探索者(九) ~》
昼餉を終えてから、オイルレーズンが険しい表情で話を始める。
「キャロルや、先ほどの振る舞いは、大きな失敗じゃよ」
「はい。ですけれど……」
「言いたいことは、よく分かる。マトンたちを救いたいがために、飛び出したのであろう」
「そうですわ」
「じゃがなあ、試用期間中のショコラは兎も角、歴戦の探索者を見縊ってはならぬわい。三十年の経験を持つ剣士であるマトンは、お前から知らせて貰わずとも、迫りくる暗碧大狼には、気づいておったはずじゃからのう」
「仰る通りです」
「麓で話したように、キャロルはまず、自身の命を最優先に守ることじゃ。他の面子のことを救うのは、まだまだ多くの経験を積み重ねなければ、できるようにはなりゃせぬ」
「承知、しました」
キャロリーヌは、先ほど麓で発した、「承知」という言葉を、強く噛み締めざるを得なかった。
ここに、今まで黙って聞いていたマトンが口を挟んでくる。
「キャロル、僕たちを救いたいと思ってくれた気持ちは、十分に嬉しいよ。そして今回、首領からは大きな失敗だと判定されてしまったけれど、最大の失敗ではないからね。とても大切な経験の一つになったはず。今後は、探索の際に自らのなすべき動作がどうであるべきかを、正しく判断してから動くこと。これを、しっかり胸に留めておくことだね」
「その通りじゃ。キャロルや、分かるのう?」
「ええ、よく分かります。ありがとう、マトンさん。そして、二等管理官さまとショコラビスケさん、本日は、多大なご迷惑をお掛けしてしまいました。この先は、気持ちを新たに精進して参りますわ!」
「ふむ」
「がほほ」
未熟な探索者、キャロリーヌの顔に、再び笑みが戻ってくるのだった。
「しかし、突如キャロルが飛び出したのには、さすがにあたしも、肝を冷やしたものじゃわい。ふぁっはは」
「済みません……」
「オイルレーズン女史の魔法を使って、止められなかったんですかい?」
「魔法は、そう単純なものではない。勢いをつけて動き出した者を急に止めたりすると、身体を大きく損なうことになる。そうかといって、ふり落とす訳にもいかんかった。今のキャロルでは受け身を取れぬから、地面に激突して、それこそ大怪我をしたはずじゃからのう」
「まあ、そうだったのですね……」
「がほほ。魔法も、なかなかに難しいものですぜ」
「その通りじゃ」
ここでマトンが会話に加わってくる。
「ショコラは、魔法に興味があるのかい?」
「へい、こりゃ昔のことなのですがね。俺は子供の頃に母ちゃんから、親爺が入った集団の首領は偉大な魔女族なのだと、よく聞かされたものですぜ。だから、どんなに凄い魔法を使える女史なのかと、つくづく思いを馳せていたのでさあ。だけどなあ、一年ほど前に俺の母ちゃん、悪い流行り病に罹って、ポックリと……」
いつも陽気でいる竜族の男だけれど、今ばかりは意気消沈した。
「まあ、お気の毒ですこと」
「そうか、寂しいのかい?」
「今は、こうして仲間ができて……。だから俺は、平気でさあ。がほほ」
「ショコラや」
「なんですかい?」
「今日の働きは、確かに認めることにしよう。じゃが、面子として採用するとは、まだ正式に決めておらぬ。尤も、この先も同じように役立つのならば、近いうちに認めてやれるじゃろうがのう」
「へいへい、重重に承知です。そうと決まれば、さあ出立しましょうぜ!」
「ふむ、その意気じゃよ。しっかりと励むがよい。ふぁっははは!」
老魔女の笑い声が、休憩終了の号令になるのだった。
こうして、四人は再び二組に分かれ、山頂へ向かって出立する。
 




