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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART2 栄養官になるための試練》探索者としての険しい道
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《★~ 未熟な探索者(七) ~》

 マトンは、美しい栗毛の愛馬、チェスナトヂューエルを、ここの近くで探索者イクスプローラを相手に営む茶屋まで連れて行き、そこに預けてきた。

 戻った彼はすぐ、地面に寝転がっている竜族の男に出立を促す。


「さあ僕たちは、そろそろヒエイー山に登ろう」

「おうよ!」


 ショコラビスケは、「待ってました」と言わんばかりに跳ね起き、傍に置いてある背袋リュックを肩に担ぐ。

 ここで首領キャプテンのオイルレーズンが、簡潔に指示を出す。


「山頂近くにある台地で合流じゃよ」

「了解!」

「お気をつけて」


 キャロリーヌからの言葉を受けたマトンたちは、意気揚々、山道へと駆けてゆくのだった。

 残った少女と老魔女は、地面に座ったまま、もうしばらく休憩を続ける。


「今日の討伐対象は、深赤牙猪(ディープレッド‐ボー)じゃ。なかなかに速く駆けて突進してくる獣なのでな、キャロルは箒柄ブルームに乗って、ただ逃げ回っておればよい。あの鋭い牙で突かれると大怪我をするでのう」

「はい!」


 力強く答えるキャロリーヌである。


「まだ曲線飛行(カーヴ‐フライト)を教えておらぬから、回避に使うのは上昇ライズじゃよ」

「分かりました」

「一つ覚えておくがよい。探索者にとって最も大切な心構えじゃ。それは、どんな状況に陥ろうとも、必ずや生きて逃げ延びること。敵にやられ死んでしまっては、最早どうにもならぬからのう。要するに、命を落とすことは、最大の失敗フェイリャという訳じゃ。探索者たる者、討伐対象によって逆にあやめられるのを、それこそ命懸けで避けねばならぬわい」

「承知ですわ」

「ふむ。それでは行くとするか? マトンたちより早く着くことになるが、初めてのキャロルは、周囲を見ておくのがよいからのう」

「はい」


 キャロリーヌとオイルレーズンは立ち上がり、各自の箒柄を空中に水平となるように静止させ、その上に腰掛ける。


 ・   ・  ・


 遅れて出立した二人は、上昇と飛行を小刻みに繰り返して空中を進み、山の中腹辺りにまで達した。

 オイルレーズンがキャロリーヌの耳元に近づき、小声で話し掛ける。


「見てみよ。暗碧大狼(ダークブルー‐ウルフ)じゃ。こんなところで出会でくわすとは、珍しいわい」


 山の斜面には沢山の木が繁っているけれど、ところどころにある隙間の一つに、大きな獣が姿を覗かせているのだった。それがキャロリーヌの目にも入る。


「あらまあ、お口に大きな牙がありますわ……」

「そうじゃとも。ほとんど直線に突進してくる深赤牙猪とは違って、あれは複雑な動きで攻撃してきよる。しかも狂暴さでは、牙猪ボーより数段も上じゃ。今のキャロルには難易度が高過ぎる。さすがに今回は、相手にできぬのう」

「はい」


 この時、少し離れた場所から、マトンとショコラビスケがやってくるのだった。

 彼らは、大狼ウルフのいる位置に向かって進行しており、このままでは鉢合わせとなりそうである。


「早くお教えしませんと!」

「おおっ、キャロルや」


 オイルレーズンが呼び掛けたけれど、キャロリーヌは、既に高速の飛行フライトで、マトンたちの傍へと突き進んでいる。

 空中を飛んで急接近する少女の姿は、暗碧大狼から丸見えになってしまう。このため、狂暴な大狼が、キャロリーヌに照準を合わせ、突進を始めた。

 オイルレーズンも、咄嗟に、少女の後を追って飛ぶことにしたけれど、僅かな初動の差のために、間に合いそうにない。

 マトンとショコラビスケも、この緊急事態に気づいた。


「キャロル!」


 マトンは叫んだ。そして走り出しながら、背中に担いだ鞘に収まっている剣、イナズマストロガーノの柄を握り締め、それを素早く引き抜く。

 剣先を暗碧大狼に向けて全速で駆けるのだけれど、こちらも僅かばかり間に合いそうにない。

 ここで、すぐ横にいたショコラビスケが一つ大きく、「がっほーっ!」と咆え声を上げる。これには敵を威嚇して、こちらへと注意を向けさせる狙いがあった。

 しかしながら、大狼の方は、最初に標的としたキャロリーヌに向かっての突進をやめようとしない。

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