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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART1 キャロリーヌの運命》婚約者と白いお馬と病床の父
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《☆~ 現在(二) ~》

 やや緊張した面持ちを見せるキャロリーヌに、ジェラートが問い掛けてくる。


「しかし、ずいぶんとよい匂いだな。煮込み料理だね」

「ええ、真雁まがんのお肉を煮込みましたわ。味つけに使ったのは、お父さまのご友人の方に頼んで、先日やっと東部から取り寄せて頂けた特別な合成調味料(アレンジ‐スパイス)よ」

「おお、それは聞いて知っている。アラビアーナ産の竜髄塩だろうな」

「あらまあ、さすがジェラートさまですこと」

「うむ。だがこの僕も、食するのはこれが初めてとなるよ。楽しみだなあ。手間暇を掛けて調理したのだね、キャロル」

「ええ、仰せの通りです。竜髄塩で味つけをし、柔らかくなるまで、じっくりフツフツと煮込みましたわ。あなたさまが、可愛い・可愛いファルキリーさんと、仲睦まじく駆けていらしたお時間の二倍を掛けてね。あたくしの初挑戦にして渾身の一品ひとしな空腹ひもじさで今にも倒れてしまいそうな一等管理官さま、お食べになりたいかしら?」

「おお、それは間違いなく、この上もなく美味なはず。さあ早く、さあすぐにでも食べさせておくれ。ローラシア皇国で最高の料理人に比肩するであろう、僕の可愛い・可愛いキャロリーヌ嬢」

「まあジェラートさまったら、ずいぶんと、お調子のよろしいこと。うふふ」


 固唾を飲んで待つ空腹貴族の目の前で、キャロリーヌが、温かい煮込み料理を深皿ボウルによそい、彼の前に置いた。

 想像以上によい香りが漂ってくるため、ジェラートは危うく卒倒しそうになっているに違いない。

 ただそれでも、ローラシア皇国で最も優秀な管理官を唸らせることができるかについては、今のキャロリーヌでも、確たる自信を持っている訳ではない。


「さあ、お召し上がりになって」

「うん。ありがとう」


 このジェラートは、皇帝陛下の日程管理、および食事内容を含めた健康管理の全般を任されていて、宮廷内では、「グレート‐ローラシア大陸内で人類一の最上級な鼻と舌とを持っている男」とまで称賛されるほどの、偉大な美食家でもある。

 だからキャロリーヌにとっては、単なる恋仲の男というだけでなく、調理官になるために励んでいる修行の成果を判定ジャッジして貰う「創作料理の審判役」でもあるということ。


 息を飲んで見守るキャロリーヌの前で、ジェラートは、フォークで突き刺し深皿から鼻先まで運んできた肉片を、まずヒクヒクと嗅ぎ、そしてようやく口に入れ、静かに咀嚼を始めた。

 ややあってジェラートの持つフォークが、音もなくナプキンの上に置かれる。

 彼はずっと目を閉じている。今しばらく続くように思われる沈黙に、とうとうキャロリーヌは耐え切れなくなってしまう。


「あのジェラートさま、どうかしら?」

「ううーん。なんともいやあ、これは」

「え?」

「いやあこれは、この料理は、どう言葉に表わせばよいものか」


 グレート‐ローラシア大陸一の鼻と舌は、相手が誰であろうと、お料理の味に関しては一切の虚飾を挟まない誠実さを保つことで、皇国貴族たちの間で広く認められている。

 それほどの男がどうして、なにを今さら躊躇ためらう必要があるのだろうか。

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