《★~ 未熟な探索者(五) ~》
オイルレーズンは、竹馬の友人と呼ぶにふさわしいホイップサブレーとの世間話もほどほどにして、そそくさと工房から出る。
キャロリーヌも箒柄を握り、老魔女の後に続く。
「さあて、出立するかのう」
「はい」
向かう先は中央門である。そこを出るまでは飛行での移動が禁じられており、当然のこと歩かなければならない。
今日のキャロリーヌは、ファルキリーに乗らないけれど、乗馬のできる衣装を身につけている。とても動きやすいので、探索に出掛ける時にも、この姿となることを決めていた。
中央門に到着したキャロリーヌは、外衣の肩章を護衛官に見せ、本人性を確認して貰う。
続いてオイルレーズンが前へ出る。着ている婦人服は、やはり管理官を意味する朱色地で、肩章に、ローラシア皇国の紋章が銀色に輝いている。この春から二十種類となった高級官肩章の中でも、一番に優雅だと思える意匠なのである。
検問を通過した二人は、中央門から外へ出て歩き始める。
しばらくして、オイルレーズンは広い場所で立ち止まった。持っている箒柄を地面と水平になるよう握り直し、短く一言、「静止」と詠唱する。
老魔女が手を離した後もまだ、箒柄はピタリと空中で止まっている。
「さあキャロルも、同じようにやってみよ」
「はい。静止!」
すると、キャロリーヌの箒柄も、空中に浮いたままの状態となった。
「ふむ。なかなかに筋がよいわい。しかし、ここからが本番となる。あたしのやり方を真似て、同じようにするのじゃよ」
「はい」
オイルレーズンは目の前に浮いている箒柄に腰を下ろした。
それを見て、キャロリーヌも腰掛けようとする。
「きゃ!」
箒柄の上に乗ったはずの少女が前後に大きく揺れてしまい、少しして、とうとう後方へ向かって身体が回転を始める。
この様子を黙って眺めていたオイルレーズンだけれど、キャロリーヌの後頭部が地面に激突する直前、いわゆる「間一髪」というところで叫ぶ。
「反回転!」
すると、少女の身体に今あったばかりのことと、そっくり逆向きになる奇妙な動きが起こって、その結果、箒柄に腰掛けた瞬間の姿勢に戻り、ピタリと静止した。
これには、キャロリーヌも驚くしかない。
「あらまあ!」
「危ないところじゃった。頭を地に打ちつけたなら、今頃は失神しておったことじゃろう。集中を欠いてはならぬぞ」
「はい、気をつけます」
キャロリーヌは練習を続ける。
失敗が続き、その度にオイルレーズンが救って、どうにか怪我をすることもなく、箒柄に腰掛けることができた。
「ふむ。その身体の均衡を、しかと覚えねばなるまい」
「分かりましたわ」
キャロリーヌは箒柄から降りて、さらに数回の練習を重ねた。
そしていよいよ、ヒエイーの山へ向かって飛んでゆくこととなる。
まずはオイルレーズンが「飛行」と詠唱し、老魔女を乗せた箒柄が空中を東へ移動し始める。それを見習ったキャロリーヌも同じ魔法を唱えて、飛び立つことができた。
少しして、オイルレーズンが飛行速度を落とす。箒柄の先端が左手側となるように乗っており、それと逆の向きで腰を掛けているキャロリーヌとは、お互いに正面で向き合っている。
空中を飛んでいながらも、老魔女は、少女に細やかな助言を怠らない。
「進行方向から吹いてくる風に逆らってはならぬ。殺そうとせず、柔らかく受け流すこと。そして、後方からの風を巧みに生かし、推進力にするのじゃ。最初のうちは困難じゃけれど、これを会得できれば疲れることなく、長い距離を飛行し続けられるでのう」
「はい、やってみますわ」
初めて体験する魔法の箒柄飛行である。
子供の頃には誰もが憧れるであろう、大空を自由に飛ぶこと。キャロリーヌは、それのできる鳥になったような昂揚感を覚えながら、風を切って飛行し続けるのだった。




