《★~ 未熟な探索者(二) ~》
二つ刻半を迎えた。夜が明けて、日が昇り始めている。
キャロリーヌとオイルレーズンが、宮廷内から出てきた。
門の外の少し離れたところに、人族の青年一人と竜族の男一人とが並んで立っている。マトン‐ストロガノフとショコラビスケである。
昨日の夕刻、オイルレーズンが、マトンの泊まっている宿屋まで使いの者を走らせ、今日の予定を知らせてあるので、律儀な性格で、特に女性には優しく接するマトンは、わざわざここまで迎えに出てきているのだった。
そんな彼に向かってオイルレーズンが言う。
「宿屋で待っておればよいと伝えたはずじゃろう?」
「はい、首領オイルレーズン女史。ですけれど、僕の矜持は、それをよしとせず、こうしてお迎えに参上させて頂いたのです」
「いつもながら、マトンは気障りな男じゃわい」
「お褒め下さり光栄です」
「いいや違う。あたしゃ文字通りの意味で気障りに感じておるわい。まあどうでもよいが、そこにおる竜族は、なに用じゃ?」
「おうよ! 待ってたぜ、オイル婆さんよお!」
「戯けーっ!!」
「がほっ!?」
オイルレーズンが極めて大きな一喝を放ったものだから、ショコラビスケは、巨体をビクリと震わせることとなった。
「初対面の淑女に向かって、そのような横柄は口を利くとは、なんという無礼な竜族じゃ! あたしの魔法で、その悪い口を二度とは動かせぬように、してやろうかのう?」
「あっあ、あい、あい済みませんことで! 今のような横柄な口は、もう決して利きませんぜ。どうか、お許しを!」
ショコラビスケは地面に座り込んで、全身全霊で謝罪するのだった。
その横に立っているマトンは、笑ってしまうことを堪えている。
「あ、あの二等管理官さま」
「なんじゃな、キャロル」
「あの、そちらの竜族さんには、なにも悪気はなかったことと思いますし、あたくしからもお願いします。どうか、ショコラビスケさんのお口を動かないようにすることだけは、ご勘弁なさって下さいまし」
「おおキャロルや、なんと優しい娘なのじゃ!」
「ああっ、二等管理官さま。く、苦しくて……」
オイルレーズンが、あまりにも強く抱擁したため、胸部を締めつけられたキャロリーヌは呼吸困難に陥っている。
「おお済まぬ、力を込め過ぎたわい。ふぁっははは!」
老魔女が少女の身体を解放し、続いて竜族の方へ向き直る。
「聞いての通り、この心根の優しいキャロルに免じて、今回に限り許すわい。じゃが、次はないと思っておくがよい」
「へい、ありがたいですぜ!」
「礼なら、こっちのキャロルに言うべきじゃろう?」
「へいへい、キャロリーヌさん、感謝しますぜ。がほほ!」
オイルレーズンが険しい表情のまま、引き続きショコラビスケに問い掛ける。
「話は昨夜、キャロルから概ね聞いておる。あたしの集団に加わりたいそうじゃが、十分な覚悟ができておるか」
「へい、もちろんですぜ。首領オイルレーズン女史!」
「たとい金竜の業火を浴びて丸焼きにされようとも、銀海竜の腹の中へ飲み込まれようとも、お前はビクともしないのじゃな?」
「へ、いやあ、そこまでの覚悟は……」
「ふぁっはは! そりゃそうじゃのう。そうならぬように、細心の心掛けを持って戦いに挑めるかどうかを尋ねておるのじゃ。お前とて、お前の父親、ヴァニラビスケと同じ運命を辿りたくはないじゃろう?」
「へいへい。俺は親爺の仇討をしたいと願っていますぜ。きっといつの日か必ず、憎い金竜を倒してみせるとも」
「ふむ。それならば見習いの面子として同行することを認めてやるわい。じゃが、みっともない失敗をするようであれば、採用は取り消す。それでよいか?」
「十分でさあ。いい働きをして、正式な面子になりますぜ! がっほほほ~」
「よかったですわね、ショコラビスケさん」
「おうおう! よろしく頼みますぜ、キャロリーヌさんよお!」
「はい。こちらこそ、お願いしますわ」
こうしてショコラビスケの試用期間が始まったのである。




