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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART2 栄養官になるための試練》探索者としての険しい道
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《★~ 未熟な探索者(一) ~》

 キャロリーヌとオイルレーズンが共同で暮らす宮廷官舎の一区画パーティションは、調理場兼食堂と寝室のみで構成されている。

 二人で共有しているため少々狭いけれど、宿屋での生活とは違い、支払いが不要で、しかも自邸に住んでいるという安堵感を持てることが利点なのである。

 ここへオイルレーズンも帰ってきて、料理場に現れた。


「お帰りなさいまし」

「ふむ。煮込みの準備は、整っておるかのう?」

「はい、万端ですわ」


 オイルレーズンが鍋に近づき、「刻削減リダクション」と詠唱する。これはこくを短縮する魔法スペルである。

 鍋から漂ってくる香りが俄かに変化した。通常の調理手順なら、三つ刻ほどフツフツと煮込まなければならないのに、老魔女によって施された刻短こくたんのお陰で、その必要がなくなった。


「どうじゃな?」

「とってもうまく、仕上がっていますわ」

「そうか。ならば早速、食べるとしよう」

「ええ、そうしましょう」


 二人は、美味しくて滋養分が豊かな真雁の煮込みを久しぶりに堪能できた。

 夕餉を終えてからは、いつものように香草茶(ハーブ‐ティー)を飲む。

 オイルレーズンが、今日の討伐を中止にした理由を詳しく説明する。

 シャルバート‐スプーンフィード伯爵が背任行為を働いているという話だったので、キャロリーヌは、大きな驚きを隠せない。二ヶ月と少し前まで深く心を寄せていた婚約者の父親が、悪の権化同然インバディメントだと知ったのだから、無理もないこと。


「そうなりますと、スプーンフィード伯爵は、パンゲア帝国の悪魔女あくまじょと結託することで、邪な企てを続けてこられたのですね?」

「そうじゃとも」


 アタゴー山の西側の麓には、ローラシア皇国、パンゲア帝国、エルフルト共和国が接する地点ポイントがある。そこを中心とする一定の範囲は、「ローラ・パンゲ・エルフ三国協定」と呼ばれる国際条約によって、相互不干渉を守るようにと定められており、その領域内では、たとい自国の領土であっても、軍事的活動と魔法を使った自然改変の一切が禁止された地帯ゾウンとなっている。

 スプーンフィード伯爵家が所有している私領の一部が、その相互不干渉地帯に隣接しているのだけれど、最近になって、そこを通行するエルフルト共和国の商人たちが、狂暴な獣に襲われるという被害が多発しているらしい。

 この件についてオイルレーズンが隠密に調査したところ、パンゲア帝国の魔女どもが、相互不可侵地帯で魔法を使い、条約違反となる悪事を働いていることが判明した。スプーンフィード伯爵家の私領に近い一帯にいる獣を魔獣化し、意図的に人族を襲わせているのである。


中級(ミドル‐)探索者イクスプローラであれば、どうということのない狂暴さ加減じゃが、キャロルには、とても無理な難易度になってしまっておるのでな、じゃから今日のところは取りやめにした」

「そうだったのですね。あたくしが、未熟なばかりに……」


 討伐未経験のキャロリーヌが魔獣を相手にするのは時期尚早で、あまりにも危険が大きいのである。


「自らを責めるものではない。これから腕を上げてゆけばよいでのう」

「はい」

「ただ悠長にはしておれぬ。厳しくなることじゃろうから、覚悟せよ」

「ええ、あたくし、精進を致しますわ」

「その意気じゃわい。ふぁっはは、ふぁっはっはっは!」


 竜髄塩の効果で、オイルレーズンの機嫌と顎の調子がよいのである。


「明日のヒエイーでの討伐は、少しの失敗フェイリャも許されぬ。キャロルや、気持ちを切り替えなければなるまいぞ」

「はい」

「ならば今夜は、栄養も十分につけたことじゃし、もう寝るかのう」

「ええ、そうしましょう」


 少しばかり早い刻限だけれど、少女と老魔女は、二つの寝台が配置してあるだけの質素な寝室に入り、それぞれ眠りに就くのだった。

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