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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART2 栄養官になるための試練》探索者としての険しい道
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《★~ 宮廷内の陰謀と圧力(四) ~》

 キャロリーヌが、複雑な思いを胸の内に秘めながら割り当てられている居室に入ると、中にいる人族の女性たち三人からの視線が注がれることになった。

 そして、この部屋の首領キャプテン気取りでいる十九歳の三等調理官、キルシュ‐フォンデュが、開口一番、当てつけをするかのような口調と表情で尋ねてくる。


「ああらまぁ、アタゴーのお山へゆかれたはずのメルフィル公爵殿は、もうお帰りになりましたか。獣討伐とやらの職務は、ご無事に遂行なさったのね?」

「まあ怖いわ、獣ですって! おほほほ」


 キルシュのすぐ近くで、言葉とは裏腹に、さも嬉しそうな顔で笑っているのは、同じく十九歳の三等調理官、ホッティ‐マサラである。その小柄な容姿は、宮廷内でのキャロリーヌにとって唯一の友であるセサミと似ているけれど、持っている性格には大きな違いがある。

 黙ったままでいては、さらに続いてどのような悪態の言葉が飛び出すか分からない。このような場合、キャロリーヌは素直な返答を心掛けている。


「今日の獣討伐は中止になりましたの。二等管理官のオイルレーズン女史が、その判断をなさったものですから」

「あら、それは残念なこと。ですけれど皇国宮廷の高級官キャリアであられる、お偉いはずの四等管理官殿が、どうしてまた獣などを討伐しなければなりませんのかしら? わたしには、それが不思議でなりませんの。うっふふ」

「おっほほほ」


 皮肉に満ちた言葉を繰り出して笑い種にするキルシュとホッティの間に、二十歳の三等政策官、ケール‐ベジターブルが割り込んでくる。


「お二人とも、いけませんわよ。獣を相手にするしか能のないお方に対し、そのようなことを言っては。それはもう、哀れでしかありませんものね」

「ケールさんの仰る通りですわ。今後は善処させて頂きましょう」

「おほほ、是非そうなさって。あっ、いけないわ! ゆっくりばかりはしておれませんことよ。キルシュさん、ケールさん、そろそろ職務へ戻りませんと?」


 ホッティの言うように、定められている休憩の時間は守らなければならない。

 三人はこれで部屋から出てゆくことになるけれど、キルシュが最後にまた嫌味の一つを加える。


「ところで、獣討伐の係官殿は、スプーンフィード伯爵家で明日執り行われる結婚披露の儀へは、ご参列なさいますのかしら? もしそうだとしても、獣を連れてきてはなりませんのよ。ご存知?」

「おほっ、おほほほ!」

「まあキルシュさん、ホッティさん、失礼ですわよ。善処なさって」

「ええ、もちろん」

「そうですわね。おほほ」


 これにはキャロリーヌも返す言葉が見つからず、ただ呆然としたまま三人を見送ることしかできない。

 目の前から口の悪い者たちが立ち去った後、瞼の内から溢れ出てくる熱い涙を抑えられなかった。


《お父さま、お母さま、そしてトースター。あたくしは、このくらいのことで根を上げませんわよ。立派な探索者イクスプローラとなり、きっと近いうちに栄養官の地位ポジションに就いてみせます》


 ローラシア皇国の宮廷内に渦巻く数々の陰謀があるというのは、オイルレーズンから詳しく聞かされたこと。今さら辟易するようではいけない。

 この先もまた涙を流すことがあったとしても、それは決して敗北を意味するものではなく、「逆境に負けたくない」あるいは「どこへも逃げることができない」という気持ちの表われであると自身を納得させて、今日まで耐え抜いてくることができている。

 逆風が吹くことは十分に承知の上で決意し、宮廷ここへ踏み込むと決めた以上、その道の半ばで諦めてはならないのだと再三再四、胸の奥底で固く誓い直すのだった。

 新参の四等管理官、キャロリーヌ‐メルフィルは、自分ですら気づかないくらいに、精神面で目覚ましい成長を続けている。つまり、キルシュたちの意図に反する形で、周囲からの圧力が、この少女を強くするための糧となるのである。

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