《☆~ 現在(一) ~》
ローラシア皇国は、その名の通りグレート‐ローラシア大陸を代表する国である。
大陸の中央と西部および南東部をすっぽりと含む広大な一帯を領土としており、その面積は実に大陸の半分近くを占めている。
この大地に大昔から生きている人族に近い動物、すなわち亜人類には、魔女族、小妖魔、竜族、獣族がある。
永い歴史の中で、人族は、四つの亜人類とは互いに譲り合うようにして、大陸の土地、水資源、植物の実り、食用動物などを共有してきた。
しかし、二百年くらい前から人族は、急激に人口を増やし、強大な武力を得て、亜人類を次第に北西や北東といった辺境の地方へと追いやるようになった。それにより、人族が大陸の覇権を勝ち取ったような形になっている。
今では、ローラシア皇国に住むことが許されている亜人類は、一部の善良な魔女族と、兵士としてしっかり管理された竜族のみである。
ほとんどの人族と魔女族は草食動物や鳥、魚などを調理して食べているという点が、他の亜人類とは異なっている。
小妖魔は肉を一切食べないけれど、精神的に弱っている人族の魂を吸い取ると言われていて、人族からは忌み嫌われる存在だという。そして竜族と獣族は、捕らえた獲物をそのまま噛み切って食らいつく。こういう点で、人族から見ると、魔女族を除いた三つの亜人類は極めて野蛮な存在なのである。
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ローラシア皇国では、たいていの貴族が、五つのキャリア宮廷官職として、政策官、管理官、護衛官、調理官、医療官のうち、いずれかに就いている。
それらの官には、技と力と実績に応じて、一等から三等までの等級が与えられる。
頂点である一等は、各官職の一人だけに与えられる。つまり名実ともに最上級の能力を持つことが、皇帝陛下から認められた証なのである。
まだ二十四歳という若さながら、栄えある一等管理官の地位にまで登り詰めたジェラートがメルフィル家を訪れ、食堂の席に座っている。スプーンフィード伯爵家の次男で、キャロリーヌと婚約関係にある男だ。
それなのに、最近の彼ときたら、キャロリーヌの亡くなった弟、ありし日のトースターが愛育し騎乗していた、牝馬ファルキリーにお熱なのである。
《今宵こそ、愛しいジェラートさまのお心を、あたくしへ戻さないと!》
今のキャロリーヌは、いつになく自信を持っている。
なにしろ、ゴンドワナ地方東部に位置するアラビアーナ産の竜髄塩を初めて使い、丁寧に調理した鳥肉の煮込みである。
だからこそ、「渾身の一品」だと、胸を張って出すことができるというもの。