《★~ 宮廷内の陰謀と圧力(三) ~》
昼間は日の光を浴びると鮮やかな緑色に輝き、夜には月明かりで仄かな青磁色となるローラシア皇国城は、秀麗さと堅牢さの両面においてグレート‐ローラシア大陸で紛れもなく唯一の極上等な名城であると、内外の誰からも認められてきた。
この揺るぎのない栄光は、ローラシア皇国の建国八百年を記念して築城されてから、およそ千二百年もの永い時を経た今でも変わらない。当時の偉大な魔女族が数百人も集まって施した、老朽化防止という魔法のお陰なのだけれど、この点を忘れている者も多い。
兎も角、壮観なお城の眺めを、いつもキャロリーヌは誇らしく思う。古くから伝統と格式を重んじてきたメルフィル家の人族として必定の理だと、本人は自覚しているのだった。
お城をぐるりと取り囲むようして建ち並ぶ官舎の中には、ここで働く宮廷官たちが休憩するのに使える居室も用意されている。
一等と二等の官職者には個室が割り当てられているけれど、それ以外の者は、いわゆる「相部屋」という形で複数人が共用して使わなければならない。
ただでさえ手狭なところに、この春から新たに設置された四等が割り込んでくることに対し、傍迷惑に感じた三等官は多い。これまで二人または三人だった部屋に、歓迎しがたい増員があったためである。
キャロリーヌに割り当てられた休憩居室には、二人の三等調理官と一人の三等政策官がいるのだけれど、三人ともが、新参の四等管理官に冷たい態度で当たってくるのだった。
その理由は、単に部屋が狭くなったということだけではなかった。二人の調理官、キルシュとホッティ、そしては政策官のケールは、キャロリーヌに恨みを抱いている。
三年と数月前に、一等調理官の地位にあったキャロリーヌの父親、グリル‐メルフィルが指揮した、パンゲア帝国皇太子をもてなすための立食会に携わり、あの忌まわしい事変が起こったために、キルシュの母親、ワイナリ‐フォンデュと、ホッティの母親、ガラム‐マサラは、どちらも連帯責任で官職を剥がれてしまった。
また当時の一等政策官で、引責辞任を選び宮廷を去ることにしたハボタン‐ベジターブルは、ケールの父親だったのである。
あの事変によって処分を受けた者たちは、既に大赦で例外なく無罪放免となっているけれど、そうだからといって、当事者たちのすべてが、再び皇国宮廷で同じ地位に返り咲いた訳ではなかった。それでキャロリーヌは、日々この件に関する恨みの気持ちを込めた、とても陰湿な言葉を投げ掛けられたりしている。
キャロリーヌの父親は命を落とし、この世にはいない。だからメルフィル家に戻ってきた一等栄光章も、それを実力で得た所有者の彼が、再び自身に飾りつけることはできなかった。
その一方で、キルシュ、ホッティ、ケールの親たちは健在でいる。
これらを思うと、キャロリーヌの胸はシクシクと痛む。なんら悪いことを一つすらしていないグリルが、パンゲア帝国皇太子に手渡した一皿の毒入り前菜のために、おそろしい竜魔女の呪いを受けてしまい、竜魔痴という不治の病を患って苦しみ抜いた末、非業で悲惨な死を遂げたことを思い返すと、それこそ数本も折れそうになるほどに強く、歯を噛み締めなければならないのである。
 




