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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART2 栄養官になるための試練》探索者としての険しい道
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《☆~ 本日の予定は取りやめ(一) ~》

 突如、疾風のように大きな鳥が舞い下ってきた。


「きゃあぁ!」

「ヒヒィン!」


 キャロリーヌとファルキリーが短い驚きの声を発した。

 この事態には、堂々とした巨体のショコラビスケでも叫ばざるを得ない。


「急襲かよ!」


 飛来したのは、立派な白頭鷲ボールドイーグルだった。

 ショコラビスケが身構えているけれど、やってきた謎の鳥は、攻撃を仕掛ける様子もなく、馬上のマトンが真っすぐに伸ばした右の前腕に、ゆるりと乗る。


「二人とも、さぞかし驚いたことだろうけど、この鷲は、オイル婆さんが伝達用に使っている仲間さ」

「あらまあ!? あたくし、つい驚いてしまいましたわ!」

「なんだよお、この俺をあわてさせやがるとは!」

「まあまあ二人とも、なにも悪気があったのではないのだから、ここは大目に見てやってくれないかい?」

「ええ、もちろんですわ」

「おうよ。この俺も、悪気のないガイには寛大だからなあ。がっほほ!」

「うん、それはよかった」

「そんで、奴の名は?」

「名前はシルキー、出身はエルフルト共和国のアイスミント山岳地帯だよ。オイル婆さんとは十年ばかりのつき合いがある。成長抑制リダクションと呼ばれる魔法で鳥年齢の進みを遅らせているそうだから、普通の白頭鷲より長生きができるらしい」

「おうおう、そいつはすげえぜ!」


 成長抑制はファルキリーにも掛けられているのだった。

 そのことを思い出し、キャロリーヌは、改めてオイルレーズンの魔女としての優秀さを実感せざるを得なかった。


「あのそれで、そのシルキーさんは、どうしてこちらへいらしたのかしら?」

「どうやら、伝言文書を運んできたようだね」


 白頭鷲の脚に、折り畳んだ木材製紙ウドパルプペイパの文書が結びつけられている。

 だからマトンは、腕に止まっているシルキーを、彼の騎乗しているお馬の頭上へと移すことにした。そうすることで自由になった両手の指を使って、鳥の脚についている文書を損なわないよう、ゆっくりと慎重に解いて取り外す。

 そのすぐ近くに立っているショコラビスケは、他の多くの竜族たちと同じように気の早い性格をしているために、やはり黙ったままでは待てないのだった。


「伝言ってことは、なにか急用でもあるのかよ?」

「うん、そうらしいね」

「どんな用だ?」

「今から確認するから、そんなに急かさないで貰いたい」

「おっ、おうよ……」


 木材製紙は、水に濡れるとふやけて破れやすくなるという欠点があるけれど、錬金術を使って容易に作ることができて、安く手に入るので、どこの国でも、特に街中で広く普及している。

 その薄い紙片をマトンが丁寧に開き、書かれている伝言を声に出して読む。


「獣討伐は中止とする。日を改めるので連絡を待つがよい。ふぁっははは!」

「探索は取りやめですのね……」

「おいおい、ついてきた俺はどうなる!」

「あんたが自分で決めて勝手についてきたのだよ。だから僕が文句を言われる筋合いは一切ないというのが道理だね。ははは」

「そりゃまあ、そうだけどよお……」


 ショコラビスケは大きく肩を落とし、一回りばかり小さく見えてしまう。

 そのように落胆する竜族を、キャロリーヌが気の毒そうに眺めている。

 ところがマトンは、まったく気にすることもなく、馬の上で大人しく待っている白頭鷲に話し掛けるのだった。


「さあシルキー、オイル婆さんのところへお帰り」

「きゅい!」


 白頭鷲が甲高い声を一つ発してから、左右の翼を大きく広げる。

 数回の羽ばたきで、ショコラビスケの背丈より二倍くらいの高さまで勢いよく上昇し、アタゴー山のある方へと去ってゆく。

 この勇ましい鷲の姿は、まさに風よりも速かったため、キャロリーヌとマトンには、すぐ見えなくなってしまう。

 一方、人族と比較すれば十倍の視力を持つ竜族、ショコラビスケだけは、しばらくの間、シルキーの飛行を目で追い続けることができるのだった。

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