《☆~ キャロリーヌが選ぶ進路 ~》
ここでオイルレーズンが意味深長なことを話す。
「長々と物語を聞かせることになったが、それでもまだ、キャロルには伝えなかった真実も残っておる」
「えっと、他にもなにか、あるのでしょうか?」
「そうじゃとも。しかしながら、もしお前が安全と安寧を求め隣国へゆき、大統領の息子と結婚するのであれば、それは無用な真実ということになる」
「無用な真実ですか……」
「ふむ。そして逆にそれは、数々の陰謀が渦巻くローラシア皇国宮廷内へと踏み込み、栄養官として生きる覚悟をするのなら、必ずや知っておくべき真実じゃ。キャロリーヌ‐メルフィルが、そういうイバラの進路を選んだ後、晴れて三等栄養官となった暁には、この死に損ない魔女のババア、オイルレーズンが、しかと伝える心づもりにしておるわい」
「そ、そうなのですか……」
強い視線を向けられたキャロリーヌは、思わず目を伏せるのだった。
老魔女が最後の言葉を伝える。
「先ほども言ったが、一晩掛けてじっくりと考えるがよい。あたしゃ宮廷へ帰るとするわい」
「はい。どうぞ、お気をつけて……」
この次の瞬間、オイルレーズンが短く一言、「大風」と詠唱した。
すると強い風が起こり、それと同時に、痩せて骨と皮ばかりの老魔女が、か細い木の枝のようになって高く舞い上がり、空の遠くへと飛び去るのだった。
「お婆さんの魔法、やはりお見事……」
オイルレーズンの姿が見えなくなるのを見届け、キャロリーヌは邸内へ入った。
・ ・ ・
再び一人ぼっちになった少女は、自身の居室でぼんやりと過ごしていた。老魔女から話を聞いていた時には忘れていた寂しさが戻り、胸の中に広がっている。
そのうち夕刻となり、キャロリーヌは馬小屋の前にやってきた。
「ああファルキリー、あなたはオイルレーズンさんのお孫、ラムシュレーズンさんなのね……」
「ブルル」
白い牝馬は、首をゆっくりと横に振った。
地面を見つめているキャロリーヌは、それに気づかないでいる。
水桶を新鮮な水で満たし、飼葉桶の方にも、高級な飼料を高く盛った。
この後、キャロリーヌは調理場へ向かい、簡単な夕食を準備した。
それを食堂まで運び、今後のことを考えながら一人で食べるのだった。
《エルフルト共和国などという見知らない国へゆき、しかも大統領のご子息と結婚だなんて……》
少女の思案は続いた。
就寝する刻限を迎えても、まだ決心はつかないままである。
《そうかといって、厳しい職務だという栄養官になるのも、あたくしには……》
キャロリーヌは邸の外へ出た。冷たい大気が頬を掠り、その刺激で頭の中を冷やすことができた。
馬小屋では、ファルキリーが穏やかに過ごしている。
両親と弟の墓前にも立ち寄り、一つの誓いを立てる。
「お父さま、お母さま、トースター、お休みなさい……」
そして居室に戻ったキャロリーヌは、寝台に横たわり、もうなにも考えず眠りに就くのだった。
・ ・ ・
朝となり、目醒めた少女は邸内着に着替え、まずは調理場へ向かい火を熾す。
昨日の朝、オイルレーズンが狩って煮込みに使った雁肉が少し残っている。それと白米や野菜などを使い、炊米飯を作った。
腰の小物袋から封書を取り出し、迷うことなく火の中へ投げた。あっという間に、それが灰になる。
完成した温かい料理を食堂へ運び、食卓でゆっくりと味わいながら、改めて決意の念を胸に抱くのだった。
《この炊米飯が、調理官を目指したキャロリーヌを区切る、最後の一品ね》
米一粒すら残さずに食べ終え、食器類をテキパキと片づける。
乗馬ができる姿となって外へ出る。眠っている家族の墓前で、昨夜の「三人の分までしっかり生きてゆきます」という誓いを思い返す。
それから馬小屋の前にやってきた。
「さあ出発しましょう、ファルキリーさん!」
「ヒヒィン!」
少女は白い牝馬にまたがった。
疾駆で広い平原を突き進む。目指す先は、ローラシア皇国の宮廷である。
そこに、どのような艱難辛苦が待ち構えていようとも、今日からのキャロリーヌは、決して後戻りすることはないだろう。
きっと強く生き抜いてみせると誓った少女が、皇国で一番に美しい白馬、ファルキリーと一体になり、風の如く流れるように駆けてゆくのである。




