《☆~ 竜族や栄養官の話(四) ~》
若い日のオイルレーズンが参加していた集団には、竜族が特に多くいた。
その集団を率いる首領も竜族の男で、極めて強欲者だった。いつも彼が収集品の半分くらいを手中に収めるので、他の面子たちは、残りを少しずつに分けなければならず、不満を抱いている者も少なくはなかった。
ある日のこと、腕力の強さで二番手と三番手に位置している二人の竜族が、首領の目にあまる横暴さに堪りかね、とうとう苦情をつけるに至った。
しかしながら、一番手は聞く耳を持たなかった。
このために仲間割れを引き起こすこととなる。
首領に楯突いた二、三番手の二人は集団を抜けることにした。その際に、オイルレーズンを誘ったのである。
新しく少数精鋭の集団を作ることが決まり、二人の竜族は、かねてから魔法能力の高さと優秀な頭脳という点で目を見張らされていた若い魔女にこそ、首領を任せたいと提唱し、すんなり決定する。オイルレーズンも、自身が認められたことを素直に喜んでいた。
三人だけでの集団というのも少数過ぎるので、あと一人を加えた四人集団にするのがよいとのことで、全面子の意見が一致した。新面子として参加させるに値する勇敢な者を見つけることにしたのである。
二人の竜族が、志願者の中から最良だと判断した者がいる。ローラシア皇国で一番手の剣士、ディア‐ストロガノフだ。
なかなかの美男子だったこともあり、ディアを一目見た瞬間に心が奪われてしまうオイルレーズンだった。そしてこれが若い魔女の悲恋となるのである。
兎も角、新設の四人集団は早速、最初の探索へ出掛けることにした。
向かった先は、ローラシア皇国の南東端にある塩之岬である。
岬の先に広がる海域の浅瀬には、白肌鮫という巨大魚が棲息している。別名「ワイト‐シャーク」として知られる、極めて獰猛な大型肉食魚である。鋭い嗅覚で、海中に入った人族や獣族を見つけては、その者の腕や足を噛み千切って食べてしまうという。
ところが不思議なことに、白肌鮫は他の亜人類、すなわち魔女族、小妖魔、竜族を決して口にしないそうである。
その利点を生かし、オイルレーズンと二人の竜族が、標的にした白肌鮫を三方から取り囲み、その背後からディアが忍び寄り、一撃必殺の剣技で仕留めるという作戦が立てられた。考えたのはオイルレーズンである。
こうして、白肌鮫の討伐戦が始まった。
一匹に狙いを定めて三人が追い込み、ディアが剣を構えた時、彼の背後から別の白肌鮫が忍び寄ってくるのだった。
海中という人族にとっては動きが鈍るような場所であったために、ディアは右腕をごっそり、その巨大魚にやられてしまうことになる。
一人の竜族がディアを担いで陸へと上がることにした。そして残った二人が連携して、白肌鮫の追撃を遮る役目を担うのだった。
それからオイルレーズンも陸に上がり、治癒魔法を使って、ディアの傷口を塞いだ。
結果として、ローラシア皇国一の剣士は一命を取り留めたけれど、大切な利き腕を失ったのである。
オイルレーズンは、「自分の計画が浅はかだった」と深く嘆き、悲しむことになった。自ら招いた失敗のために、恋心を抱いている男の将来を絶ってしまったのだと、悔恨の思いは並の重みではなかった。
ディアは失意を抱きはしたものの、集団の首領にして作戦立案者でもあるオイルレーズンを、微塵たりとも責めることはなかった。彼は剣の腕前だけでなく、人を思いやる心の優しさにおいても、上等な男だったということ。
この人情話を聞かされたキャロリーヌは、涙を流さずにはいられなかった。




