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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART10 前人未踏の地下海域》不動のラムシュレーズン女王
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《☆~ ラムシュレーズンの覚悟 ~》

 第二月の十九日目、ラムシュレーズンは、目を醒ますや否や、胸中にぞわぞわと得体のしれない予感を抱いてしまう。

 寝台の上に横たわった状態で、「これが杞憂のまま、なにごとも生じなければよいものですわ」と願っているところ、起床の手助けをするために、デミタスが二人の後宮女官を従えてくる。

 着替えと二輪車トゥーウィール椅子(‐チェア)への移動をして貰う間、ラムシュレーズンは浮かない表情を見せ続けていた。デミタスが気掛かりになり、後宮女官たちを退出させた上で、やや遠慮がちに問う。


「女王陛下、なにかしら、ご懸念でもおありでございましょうか?」

「その通りですけれど、思い悩まないようにしますわ」


 ラムシュレーズンは、デミタスの助けを借りて食堂へ向かう。

 途中の廊下にショコラビスケ、キャトフィシュ、シロミがいて、なにやら立ち話をしている。


「皆さん、このようなところにお揃いで、どうかなさいましたの?」

首領キャプテン、ご覧になって下せえ!」

「なにかしら」

「衛兵がキャトフィシュに託したらしいですぜ」


 ショコラビスケから、一枚の羊皮紙パーチメントが手渡される。

 アバロウニが残した手紙で、「僕は旅に出なければならない。一ヶ月が過ぎても帰還しなければ、僕のことを忘れて貰いたい」と記されている。

 読み終えたラムシュレーズンが、さも悲痛そうな面持ちで口を開く。


「悪い予感が、こうして現実になりました……」

「アバロウニさんは、どういう魂胆なのでさあ!」

「さあ、どうなのでしょうねえ」


 知っているにも拘わらず、ラムシュレーズンは口に出そうとしない。


 ・   ・  ・


 アバロウニが行方知れずのまま、十日が過ぎ去った。

 今朝のラムシュレーズンは、目を醒ますと同時に驚嘆の声を発する。


「あっ!!」


 久しぶりに身体を自由に動かせたのだから、これは無理もない。ラムシュレーズンは、自力で寝台から下りて床に立つ。

 いつものように、デミタスが後宮女官を二人連れてやってくる。


「なんとまあ、手足硬直の呪詛が見事に解けておられます!」

「そうらしいわね。でも一体どうしたことかしら?」

「女王陛下の常日頃になされている善行が、うまく功を奏したに違いありません」

「果たして、真相はどうでしょうね……」


 兎も角、二輪車椅子を必要としなくなったラムシュレーズンは、自らの両足で歩いて食堂に辿り着く。

 先にきて待機していたショコラビスケが、思わず目を丸くする。


「がほっ!! 首領、動けるようになられたのですかい??」

「ええ、見ての通りですわ」


 表向きは笑顔を見せているラムシュレーズンだったけれど、胸の内では「あたくしに隠伏いんぷく呪詛じゅそを与えた魔魚族のどなたかを、アバロウニ殿があやめたのでしょう。もう彼とは、二度と会えませんわね……」と嘆かざるを得ない。


 朝餉を済ませて女王の居室に戻り、およそ四半刻が経過したところ、サトニラ氏がひょっこり姿を現す。


「ローラシア皇国のスプーンフィード一等管理官が、女王陛下に宛てて、伝書を送って寄越されました」

「えっ、ジェラートさまから!?」


 ラムシュレーズンが受け取って、速やかに目を通す。

 その文面には、訃報と朗報が一つずつ記載されてあった。


「先日シャルバート殿がご他界になられ、ジェラートさまが伯爵家をお継ぎになられたそうです」

「左様にございますか」

「それから一昨日、男子がご誕生とのことです」

「誠に祝着の至りと言えましょう。早速、パンゲア帝国王室から、出産祝いの物品ギフトを届けます」

最上級スパーラティヴの小麦粉がよいでしょう」

「承知しました」

「よろしくお頼みします。こうなったからには、あたくしも、健康な赤ん坊を産まなければなりませんわね」

御意ウィル


 サトニラ氏が深々と頭を下げた。

 魔女族は、妊娠十四日目にして自身が身篭ったことを知り、そればかりか、男女の区別を紛れもなく察知できる。

 海人類スィーリアンに属する魔魚族との間に、どのような特性を持つ魔女の子が生まれてくるのか、誰にも分からない。

 それでもラムシュレーズンは覚悟を決め、次のパンゲア帝国女王になるはずの娘を「キャラメルレーズン」と命名した。

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