表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART10 前人未踏の地下海域》不動のラムシュレーズン女王
437/438

《☆~ 躊躇逡巡を感じるアバロウニ ~》

 ラムシュレーズンとブイヨン公爵の対話が一段落となる頃合いを見計らい、蜜滴みつたらし団子だんごを盛った大皿、いくつかの小皿と竹串、および小麦茶の丸壺ポットなどをデミタスが運び込む。


「がっほほ、なにか食いたいと思っていたところだぜ!」


 早速、ショコラビスケが意気揚々と木串を手に取り、湯気と甘い香りを漂わせる団子に突き刺して食す。

 デミタスが退室し、入れ替わりでサトニラ氏がやってくる。


「女王陛下、ドリンク民国軍務省から伝書から届きましてございます。今すぐご覧になられますでしょうか?」

「ええ、こちらに置いて下さいまし」

「承知致しました」


 サトニラ氏は、円卓に羊皮紙パーチメントを広げ、丸まらないようにおもりを四隅に載せる。

 文面に目を通しながら、ラムシュレーズンが声を発する。


「あらまあ、プレイト将軍さまの患っておられます、()()()()()のご症状が、どういう訳か、まったく回復へ向かわないのですって」

「それは難儀でございますね」

「はい。生活省には優秀な医療学者(メディカル‐スコラ)が多数おられますけれども、皆さんが口を揃えるような顔を見せて、《原因は呪詛に相違ありません!》と大声でお答えになるとのことが記されています」

「プレイト氏にも、隠伏呪詛が与えられたのでしょうか?」

「さあ、どうなのでしょうねえ」


 ラムシュレーズンには、真相が分かりようもない。

 蜜滴団子を食しながら聞いていたショコラビスケが、思わず声を荒げる。


「魔魚族め、首領キャプテンのみならず、パイクさんをも呪詛しやがったのかよ!」

「言葉使いには、くれぐれもお気をつけになって」

「おっ、おうよ……」


 ショコラビスケは、決まりが悪そうに肩をすくめる。

 丁度ここへ、アバロウニがシロミに連れられて姿を現す。


「僕と面会を望む客人がいるのは真実まことかな?」

「はい。他の誰でもなく、こちらのブイヨン公爵さんですわ」

「そうか分かった」


 アバロウニが着席して手短に名乗る。

 対するブイヨン公爵は、いつものように「私は流離いの(ワンダリング‐)錬金術者アルケミスト、アントレ‐ブイヨンです」という台詞ラインを発した上で、単刀直入に問う。


「あなたは、自身が与えた呪詛で動けなくなった相手を、心から愛せるとお考えでしょうか?」

「も、もちろんです」

「偽りはないと断言できますか?」

「ブイヨン公爵は、僕を疑うつもりですね」

「とっくに疑っています。手足硬直という酷い仕打ちをラムシュレーズン女王陛下に与えたのは、アバロウニさんではなく、別のどなたかです。あなたは仲間の罪を背負う覚悟を決めたのでしょう。この点に関して、洗いざらい白日の下に晒したいと思い、あなたとの面会を望みました」


 キッパリと言い放ったブイヨン公爵は、ラムシュレーズンに話し掛ける。


「なすべき使命を果たせました。私は流離いの旅に出るとしましょう。トースターさんは連れてゆきます。必ずや足の関節を曲げられるようにし、そればかりか、話せるようにもしてみせますよ」

「どうかお願い致します」

「お任せ下さい」


 ブイヨン公爵は機械人形オートマタとともに立ち去る。

 二人を見送った後、ラムシュレーズンがアバロウニの顔面を見つめながら、さも神妙そうな表情で口を開く。


「誠に差し出がましいと重重じゅうじゅうに承知の上で、あたくしの思うところを一つ、述べさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「遠慮する必要はないだろう。なにしろ僕はキミの婿だから」

「それでは、率直に申し上げましょう。アバロウニ殿は先日、ドリンク民国のどなたかに、()()()()()を患う呪詛をお与えになりましたね。不運なことに、その厄災事に見舞われたのはプレイト将軍さまでした。こちらの伝書に記されている通りですわ」

「わざわざ知らせを寄越してきたのか……」


 アバロウニが円卓に置いてある羊皮紙に視線を注ぐ。

 一方、ラムシュレーズンは穏やかな口調で話す。


「あたくしは誓って、あなたさまがなさる行動の一切を信じ切ります」

「そのような言葉は嬉しいと同時に、この僕を思い悩ませる」


 アバロウニは、強く躊躇逡巡ヘズィテイションを感じるせいで、快適な睡眠ができないまま、丸四日を過ごすこととなる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ