《☆~ 信じがたい再会(二) ~》
ブイヨン公爵が、さも感慨深げな口調で話す。
「お会いしないうちに、キャロリーヌ嬢は色々な体験をなさった。一つ一つヴィニガ子爵から聞き及んでいますよ。オイルレーズン女史がお亡くなりになって、たいそう悲しかったことでしょう」
「はい」
「それからパンゲア帝国女王に即位し、名をラムシュレーズンに改められたのですね。さらに、隠伏呪詛のせいで手足が動かなくなったにも拘わらず、呪詛を与えた魔魚族と結婚なさるとは、つくづく風変わりなお方とお見受けします」
「本当に仰る通りですわ。うふふふ」
大人しく控えているショコラビスケは、「ブイヨン公爵さんこそ、なかなかに風変わりですぜ」と言いたくなるけれど、我慢して話題を変えようとする。
「首領、そこに立っている機械人形に移った魂は、首領との間に、どういった繋がりがあるのですかい?」
「魂を宿していたトースターは、あたくしの弟ですわ。悪魔女の企みによって、今から二年ばかり前に、彼は自ら毒を飲み、泉に入水して他界しましたの……」
「がほっ、お気の毒な厄災事でさあ!」
ショコラビスケが得心して、次は機械人形に話し掛ける。
「なあトースターさんよお」
「……」
「こうして姉上さんと再会を果たせたのに、挨拶の言葉もねえのですかい?」
「……」
少年は、顔色を変えずに立ち尽くしている。
そんな彼に代わって、ブイヨン公爵が事情を打ち明ける。
「機械人形は、話したくても話せないのです」
「がほっ! そいつは知らなかったこととはいえ、済まねえこったなあ」
少なからず気不味い雰囲気の漂っているところ、デミタスが茶碗や丸壺を載せた台車を押しながら入室してくる。
「小麦茶をお持ちしました」
「おうデミタスさん、丁度よかったぜ!」
胸を撫で下ろすショコラビスケである。
デミタスは、人数分の小麦茶を注ぎ終えて退室した。
ラムシュレーズンがお茶を促す。
「さあ、お熱いうちに、どうぞお飲みになって下さいまし」
「そうですね。頂くとしましょう」
ブイヨン公爵が茶碗を手に取ると、機械人形もそれに倣った。
ラムシュレーズンの傍にシロミがきて手助けをする。
小麦茶を一口飲ませて貰ったラムシュレーズンは、機械人形の動作を見つめながら、静かに話す。
「腕の関節は曲げられますのね」
「はい。そうでないと、自身で食事を摂れませんから」
ブイヨン公爵が神妙そうな表情で言葉を続ける。
「ラムシュレーズン女史、あなたに施された呪詛を解く手立てがあります。お知りになりたいですか?」
「それは……」
横からショコラビスケが割り込んでくる。
「ブイヨン公爵さん、是非とも教えて下せえ!! 首領がまた動けるようになるのなら、どれほど困難な手立てだろうが、この俺が成し遂げてみせますぜ!」
「ショコラビスケさん、あたくしのために、そのような強いお覚悟をなさるだなんて、本当に嬉しく思います。けれども、今回ばかりは無用ですわ」
「がほっ、そりゃあ一体どういう意味でさあ??」
「……」
黙り込むラムシュレーズンに、ブイヨン公爵が尋ねる。
「あなたは、呪詛を解く手立てをご存知なのですか?」
「はい、そうですとも。知っておりますからこそ、無用ですと、ショコラビスケさんに申したのです」
「首領、まったく訳が分からねえでさあ! どういうことか説明して下せえ!」
「その前に堅くお約束して頂けますか? 呪詛を解く手立てを知っても、決して、それを成し遂げたりしないと」
「道理は分からねえが、約束は守りますぜ!」
「呪詛を与えた者が命を落としましたら、呪詛の効果もなくなります」
「がほっ! だったら、張本人のアバロウニさんを殺めさえすれば、首領は、以前の健康な身体を取り戻せるってえ訳でさあ!」
嬉々とした顔面のショコラビスケに、ラムシュレーズンが釘を刺す。
「あたくしの大切なアバロウニ殿に、危害を及ぼしてはなりませんわよ。努努お忘れなさらぬよう、くれぐれもお気をつけになって」
「おっ、おうよ……」
いつになくラムシュレーズンの眼光が鋭いため、ショコラビスケは思わず身震いしてしまった。
その一方で、ブイヨン公爵が遠慮がちに言葉を発する。
「あなたの婿殿になられた魔魚族と、できれば面会したいです」
「分かりました。シロミさん、アバロウニ殿をお連れして下さる?」
「承知しました」
シロミはお辞儀した上で、速やかに第一迎賓室を出てゆく。




