《★~ 地下海域拓殖(二) ~》
祝賀の儀は滞りなく済み、職務遂行のため、各自が速やかに動き始める。
できるだけ円滑に地下海域拓殖を進めるには、まず拠点にふさわしい地点を探し求め、移動式の住居を設置しなければならない。薄薔薇花飛竜を使って沢山の資材を運ぶ必要があり、先遣部隊として、飛竜の扱いに長けた三十人の精鋭が選抜された。イベリコを含む残りの拓殖団員は、馬車に乗って陸路を進む。
一方、サトニラ氏、ショコラビスケ、キャトフィシュ、シロミ、シルキーが女王の居室に集結して、定例会合が開かれる。
最初にラムシュレーズンが懸念を打ち明ける。
「帝国王室の方針で始まった地下海域拓殖の事業について、民たちが疑念を抱くことはないかと、あたくしは気掛かりなのです」
するとサトニラ氏が、さも神妙そうな表情で見解を述べる。
「女王陛下のご英断に異を唱えようという輩が現れるなど、私には努努思いもよりませんけれど、民たちに地下海域拓殖の意義を知らしめるために、御布令之書を各地に出す方策はいかがでしょうか?」
「おうおう、そいつは名案だぜ! さすがはサトニラさんでさあ!」
「そのように致しましょう」
「妥当な方策ですね」
「きゅい!」
ショコラビスケに続き、ラムシュレーズンとシロミとシルキーも賛同した。
キャトフィシュは、少しばかり遠慮がちに話す。
「僕の考えを述べてもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「では誠に僭越ながら、一つ進言させて頂きます。御布令之書を出すという方策に加えて、女王陛下が各地を巡行なさるのはどうでしょうか。きっと民たちに昂揚感を与えることによって、絶大な効果を期待できるはずだと思います」
これに対し、横からショコラビスケが口を挟んでくる。
「なあキャトフィシュよお、たとい絶大な効果があるにしても、首領に自ら骨を折って貰おうってえのはどうかと思うぜ?」
「確かにそうですけれど……」
「民たちが地下海域拓殖の意義を得心できるのでしたら、あたくしは、砂粒の大きさすらも労を厭いませんわ」
「女王陛下、よくぞ仰せになられました!」
ラムシュレーズンの実直さに、サトニラ氏は感服せざるを得ない。かつて帝国王室を牛耳っていたオリーブサラッド並びにベイクドアラスカならば、「逆らう者は首を跳ねてしまえ!」の一言だったから、それは無理もないこと。
「首領とサトニラさんがそこまで仰るのなら、この俺には異議を申し立てる理由も権限もねえぜ。がほほほ!」
ショコラビスケが考えを改めた。
パンゲア帝国内を巡行する計画が定まり、「善行は急げ、熱い鉄はすぐ打て」という常套の言い回しに従う形で、すぐに出立の仕度を整える。
チェスナトヂューエルを駆るキャトフィシュと、自らの足で走るショコラビスケが先導の役を担う。警戒のために、シルキーが進路の上空を旋回する。
訪れる先々の沿道では、大勢の民たちが待ち構え、「女王陛下、万歳!」と叫び、地下海域拓殖に賛同の意思を示してくれた。
帝国女王馬のワイトローラルに騎乗したラムシュレーズンが微笑みを浮かべ、右の手を大きく振っている。その後方、馭者のピチャが走らせる馬車の中で、シロミとジャンバラヤ氏は、万が一にも不敬な悪行を働こうとする輩がいないか、鋭く目を光らせていた。
やがて半月にも及ぶ巡行は、なんら支障なく完遂するに至る。
帝国王室に帰還したラムシュレーズンは、パンゲア地下自治区へ赴いたり、ローラシア皇国から訪問してきた一等政策官のチャプスーイ‐スィルヴァストウンと会談したり、なにかと忙しい日々を過ごさなければならなかった。
拓殖団長のイベリコから送られてくる伝書には、地下海域拓殖の事業は順調に運んでいるといった朗報ばかりが記されていたので、ラムシュレーズンとサトニラ氏は大いに喜ぶ。
しかしながら、安心していられたのは束の間に過ぎず、エルフルト共和国にいるパースリから、不穏な動向があるらしいとの旨が知らされた。それによると、ドリンク民国の者たちが魔魚族の集団と度々衝突し、今にも一触即発の極めて危うい状態にまで悪化しているという。
「紛争を防がなければなりませんわ!」
ラムシュレーズンは、急ぎ現地へ向かおうと思った。




