《★~ 地下海域拓殖(一) ~》
パンゲア帝国王室に戻ったラムシュレーズンは、南方海域で起きている「一万年周期の引き潮」と呼ばれる現象、および地下海域の探索で体験した事件について、政策官長を務めるバトルド‐サトニラに漏れなく伝えた。
エルフルト共和国に帰還したパースリからの伝書が届いており、その文面には、「ドリンク民国が地下海域への進出を目論んでいるという情報を得ました。エルフルト共和国は、差し当たって、拓務省の新設を決めた次第です。そしてハタケーツ大統領は、パンゲア帝国でも同様に地下海域拓殖をなさるのであれば、是非とも協力体制を築きたいと考えています」と記載してあった。
これを最後まで読んだラムシュレーズンは、ふと思った疑問を口にする。
「地下海域拓殖のような事業は、本当に必要なのかしら?」
「私の一存では決めかねます」
「そうしましたら、話し合いの場を用意するのがよさそうですね」
ラムシュレーズンは、臨時会合の開催を思いついた。
翌日の七つ刻、女王の居室にサトニラ氏、ショコラビスケ、キャトフィシュ、シロミ、シルキー、ジャンバラヤ氏、政策官のピチャ‐ピヂョンに加えて、第三女官のデミタス‐サイフォンと先代女王の婿だったイベリコ‐パエリアが召喚される。
会合長の役割にあるサトニラ氏は、まず経緯を話した。
聞き終えたショコラビスケが真っ先に口を開く。
「拓務省ってえのは、一体なんですかい?」
「単刀直入に説明しますと、つまり、新しい領域での開拓と植民の事業を担当する行政組織といったところです」
「ドリンク民国やエルフルト共和国の真似をするとしても、それで俺たちにどんな利点があるのでさあ?」
「色々とあるでしょうけれど、一番に大きいのは、魚介類の漁場を得られることだと考えられます」
「美味い魚介類を沢山食えるようになるってえのなら、そりゃあ確かに嬉しい利点に違いねえぜ! キャトフィシュも、そう思うだろう?」
「もちろんですとも!」
ここにジャンバラヤ氏が口を挟んでくる。
「お前たちの話を聞いていると、オレは久しぶりに小麦粉汁焼きの魚介類の混合を食したくなったぞ!」
「それはどのようなものですか?」
キャトフィシュの問いに、ショコラビスケが嬉々とした顔面で答える。
「小麦粉の汁に烏賊、鞍紋貝、大海老、山椒魚の四具材を入れて焼く料理だ!」
「美味しそうですね」
「おうよ!!」
サトニラ氏が話題を戻そうとする。
「地下海域拓殖の必要について、皆さんはどのようにお考えでしょうか?」
「必要だぜ!」
「僕も同じ思いです」
「きゅい!」
ショコラビスケ、キャトフィシュ、シルキーに続き、ジャンバラヤ氏、ピチャ、デミタスも賛同するに至る。
シロミだけは、魔魚族との衝突を懸念しており「この件に賛同はできませんけれど、女王陛下のご英断には服従させて頂きます」と素直な思いを述べた。
さらに踏み込んで話し合い、「拓殖団」を組織して地下海域拓殖を任せようという方針が定まる。
拓殖団長の地位には、サトニラ氏がイベリコを推薦した。
当の本人は、「俺のような若造には、とても荷が重過ぎます」と辞退を申し出るけれど、他の総員から強い後押しの声が送られ、決意を固めるのだった。
パンゲア帝国紀年で九百五年の元日を迎えた。
新しい年を喜び祝う祝賀の儀が、例年通り第二演習場で執り行われており、サトニラ氏の采配で首尾よく運んでいる。
女王のラムシュレーズンが演説して、締め括りに「地下海域拓殖」の計画を打ち明けたので、第二演習場は、二十万よりも多い人々による大喝采に包まれる。
続いてサトニラ氏が、百五十人からなる拓殖団を新しく組織すると公表し、ラムシュレーズンが励ましの言葉を掛ける。
「地下海域には、野蛮な魔魚族が暮らしていますけれど、彼らとの衝突を避けて、開拓および植民の務めを立派に果たして下さいまし」
「はっ、了解しました!! パンゲア帝国の名誉を損なったりしないよう、全身全霊で働く所存です!」
拓殖団長のイベリコが返答し、彼を含めた百五十人がいっせいに頭を下げる。




