《☆~ 孤島の状況(二) ~》
孤島では丁度、八人からなる魔魚族の隊列が上陸してくるところ。
この者らが本当に捕海竜推進派の連中なのかどうかを確かめるために、キャトフィシュが先ほどと同じ質問を投げ掛ける。
「あなた方はフコイダン女史のお仲間でしょうか?」
「まったく違わなもし!」
「フコイダン悪い、必ずや打ち倒すなもし!」
「倒せ倒せ、すぐにも倒せ!!」
「……」
大いに憤慨する魔魚族の若者たちに気圧されてしまい、会話を続ける意欲を失うキャトフィシュだった。
そんな彼に代わって、ジャンバラヤ氏が口を開く。
「お前たちの集団は、海竜保護団体と真っ向から対立しているという捕海竜推進派かもしれないが、オレたちは、どちらの味方でもないし敵でもない」
「どっちゃかハッキリせなもし!」
「それは無理だ!」
ジャンバラヤ氏は毅然とした態度で理由を話す。
「なにしろ陸人類のオレたちにしてみれば、お前ら海人類の争いごとに関与するつもりは毛頭ないのだからな!」
険悪な雰囲気が漂う中、ショコラビスケが辿り着く。
「キャトフィシュよお、一体なにごとだ?」
「ショコラ兄さん、目前の魔魚族集団は、どうやら僕たちを敵とみなしているようです。それで臨戦態勢になっています」
「がっほーっ、これから魔魚族と一戦を交えるってえ状況じゃねえか! どうしてそんな事態を招くことになった??」
「まさに風雲急を告げる情勢ですから、詳しい説明は後回しにします」
「おう、承知したぜ!!」
ショコラビスケが両手の拳を固く握り締め、キャトフィシュは魔獣骨剣を掲げてみせる。
対する魔魚族たちは、毒の吹き矢を飛ばそうと構えた。
鎖鎌を持ったジャンバラヤ氏が咄嗟に叫ぶ。
「僅かな油断でも命取りだぞ!」
「へいへい、分かっていますぜ!!」
「僕も了解です」
突如、白頭鷲が魔魚族集団の頭上に現れた。
「うおっ!」
「わあーっ!」
「猛禽なもし」
「急襲なもし」
シルキーの牽制が功を奏し、魔魚族が皆、すっかり体勢を崩してしまう。
この瞬間、地面に一人の魔女族が降り立った。
「おうおうロイアルヂェリさん、どうしたのですかい??」
ショコラビスケが、驚きを隠し切れない気色で尋ねた。
「ラムシュレーズン女史に代わり、まかり越した次第です」
「なるほど、得心できたぜ。がほほほ!」
魔魚族の長老が仲間に向かって号令を発する。
「怯むなもし! 吹き矢を構え直せ!」
再び臨戦態勢を整えようとする魔魚族集団を前にして、ロイアルヂェリが死鏡を高く掲げて説得を試みる。
「わたくしたちに少しでも害を及ぼせば、命を落としますよ。これは、そういう効果を有する魔法具なのですからね」
「卑怯なもし!」
相手が苦情をつけてきたけれど、ロイアルヂェリは気にすることなく、死鏡を掲げたまま言葉を重ねる。
「あなた方が攻撃しなければ、わたくしたちが反撃する必要は生じません。わたくしたちは速やかに撤退する所存です。吹き矢を使わないで下さい」
「承知なもし。皆、道具を懐に収めよ」
ついに魔魚族の長老が折れた。
ロイアルヂェリは、今こそ機会だと確信する。
「わたくしはキャトフィシュさんを連れて飛行します。ショコラビスケさんはジャンバラヤ氏と泳いでお戻り下さい」
「おうよ!」
ショコラビスケが、快諾の声を発するや否や、ジャンバラヤ氏に「この浮き袋にしがみついて下せえ!」と指示を出し、ロイアルヂェリは、キャトフィシュの左手を握って飛ぶ。そして、自ら後駆を務めるつもりのシルキーが舞い上がる。
あまりに見事な機動性を目の当たりにさせられたがため、魔魚族たちは呆然となる。数人が思わず、胸の内で「陸人類、脅威なもし」とつぶやく。
およそ八分刻でロイアルヂェリとキャトフィシュが地上に帰還できた。さらに十分刻ばかりが過ぎて、ショコラビスケ、ジャンバラヤ氏、シルキーが到着する。
ラムシュレーズンが安堵し、嬉々として声を掛ける。
「総員が無事でなによりでした。夜の帳が下りてしまう前に、チャンプル村の護衛官事務所まで戻ることにしましょう」
「了解ですぜ!」
ショコラビスケが威勢よく返答し、他の者たちも帰路に就く仕度を整える。




