《☆~ 孤島の状況(一) ~》
シルキーは、全速力でラムシュレーズンたちが待っている地上へ帰り着き、孤島で見知った状況を報告した。
パースリが神妙そうな面持ちで見解を述べる。
「二人の魔魚族が大あわてで逃げ出したのは、戦いが不利だと判断して仲間を連れてくるためだという推察は、おそらく正鵠を射ているでしょう」
「私も十中に八か九、ジャンバラヤ氏がお考えになった通りと思いますけれど、もしかすると、なにか別の理由があったのかもしれません」
シロミが遠慮がちに話した。
ラムシュレーズンが怪訝そうな表情で問う。
「別の理由とは、一体どのようなものかしら?」
「例えば、唐突に急用を思い出したという些細な理由が考えられます。それが決して忘れてはいけないような、とても大切な用向きだったとすれば、大あわてするのも当然でしょうから」
これに対し、シルキーが補足的説明を加える。魔魚族たちは逃げる直前、一人が怯えた気色で「陸人類!?」と言葉を発し、もう一人は「危険なもし!!」と警鐘を鳴らしていたとのこと。
話を聞いたシロミは、ようやく得心に至る。
「そのような状況でしたら、ジャンバラヤ氏の推察は、まさしく正鵠を射ていたに違いないと考えざるを得ません」
「あたくしも、まったくそのように思いますわ。ですから、大勢の魔魚族が集結する前に、キャトフィシュさんたちを救出しなければなりません」
「首領さま、なにかよい方策がおありなのでしょうか?」
キャトフィシュとジャンバラヤ氏が魔魚族の集団と一戦を交えるにしても、そこへショコラビスケが加われば、勝ち目を得られるかもしれない。
しかしながら、ショコラビスケの方が魔魚族よりも早く孤島に到着して、二人のうちどちらかを連れて帰る途中、残された一人が襲撃を受けてしまうと、なす術はないはず。そんな最悪の状況に陥ることを懸念しているからこそ、ラムシュレーズンは意を決し、力強く返答する。
「あたくしが飛んで、孤島へ救援に向かいます」
「ええっ、とても危険ですよ!!」
「女王陛下、どうか無茶をなさらないで下さい!」
シロミとパースリが引き止めようとした。
対するラムシュレーズンは、険しい表情で覚悟の気持ちを示す。
「無茶なのは重重に承知ですけれど、事態は急を要しています」
丁度この時、お馬を駆る誰かが近づいてきた。
「皆さま、お今晩は」
やってきたのは、チャンプル村の護衛官事務所で所長を務める三等護衛官のロイアルヂェリに他ならない。
ラムシュレーズンが率直な思いを口に出す。
「このような場所にお越しなさるとは、少しばかり驚きましたわ」
「変な胸騒ぎを覚えたものですから、こうして様子を窺いに参った次第です」
「そうですか……」
「人数が少ないようですけれど、なにごとかありましたか?」
「はい。男性が二人、地下海域の孤島へ流され、ショコラビスケさんが向かっているところなのですけれど、そこへ魔魚族の集団が襲撃しにきそうなのです。たった今、あたくしが救援に出ようと決めたところですの」
「わたくしが行きましょう。孤島の位置をお教え下さい」
「えっ、でも……」
躊躇逡巡を感じるラムシュレーズンに代わって、パースリが話す。
「ロイアルヂェリさん、地下海域は、なかなかに危険が多いですよ。潮の戻りが再び起きるかもしれません」
「純水系統のわたくしは、水面下飛行が得意ですし、なんら問題ありません」
パースリは、自信に満ちたロイアルヂェリの表情を目の当たりにして、ラムシュレーズンに進言を試みようと思った。
「女王陛下、ここは一つ、彼女の好意を受けてみてはどうでしょう」
「そうですね」
ラムシュレーズンは、頭を一つ縦に振った上で、ロイアルヂェリの顔面に視線を移して問う。
「お言葉に甘えてよろしいかしら?」
「もちろんですとも」
「では念のために、これをお持ち下さい」
「魔法具ですね」
「はい。死鏡と呼ばれる代物で、あたくしの手元になければ、まったく効果はありませんけれど、虚仮威しの役には立つでしょう」
「お預かりします」
「シルキーさんに先導の役を頼みますから、続いてお飛びなさいませ」
「承知しました」
こうして、シルキーとロイアルヂェリが孤島へ向かうこととなる。
意気揚々と飛行してゆく一羽と一人を見送りながら、ラムシュレーズンは、彼らの無事を祈っていた。




