《☆~ 捜索(四) ~》
こちらは地下海域の沖に浮かぶ小さな孤島。
海水に流されて辿り着いていたキャトフィシュとジャンバラヤ氏は、なす術もなく岩の上に座って待つしかない。
彼らの傍に魔獣骨剣と鎖鎌が置いてある。二人とも気を失ったにも拘わらず、大切な道具だけは手放さなかったということ。
ここに再びシルキーが飛んでくる。
「荷袋を運んでくれたのですね」
「きゅい!」
キャトフィシュは、シルキーの脚に結ばれていた荷袋の中身を確かめる。
「海藻と伝書が入っています」
「すぐ読もう!」
「はい、分かりました」
丸められている羊皮紙を開き、二人が同時に目を通した。その文面には、「残り少ない食料を分配します。ショコラビスケさんが泳いで救援に向かってくれますから、もう少しだけ耐えて下さい。なにかの事態に備えて、シルキーさんには使者の役目を与えています」と記されていた。
「これは紛れもなく、首領ラムシュレーズン女史がお書きになった文字です」
「女王陛下は、オレらを見捨てないでおられるのだ!」
「当然ですよ。首領さまは、誰よりも心根のお優しいお方ですからね。ジャンバラヤさんが求婚したくなるのも無理はありません」
「キャトフィシュ、こんな状況なのに、照れてしまう話題を持ち出すな!」
「あっ、どうも済みません」
しばらく他愛のない雑談を続けていたところ、二人連れの魔魚族がひょっこり姿を現すのだった。
見たところ、彼らは手ぶらなので、キャトフィシュがなんら警戒することなく、親しげな表情と口調で話し掛ける。
「こんにちは。あなた方はフコイダン女史のお仲間でしょうか?」
相手は返答せず、血相を変えて互いに言葉を交わす。
「陸人類!?」
「危険なもし!!」
魔魚族たちは大あわてで、なにか叫びながら元きた道を取って返す。
キャトフィシュは、走り去る二人を見つめながら口を開く。
「一体どうしたのでしょうね」
「今の者どもはおそらく、海竜保護団体と真っ向から対立しているという捕海竜推進派の連中に違いない」
「そうだとして、なぜ逃げる必要があったのでしょうか?」
「オレたちを敵とみなしたからだ。向こうは武器の類を持たない二人組で、こちらには剣と鎌があったし、鋭く尖った爪を持つ白頭鷲もいる。それで戦うには不利だと判断して、一時的に撤退をした。おそらく仲間を連れてくる!」
「え、そうなのですか??」
キャトフィシュは、俄かには得心できない。
それでも、胸の内で「この人は鎖鎌の使い手として数多くの戦いを乗り越えてきた勇者に違いないから、彼の言葉は信じるに値するでしょう」とつぶやき、自らを納得させるのだった。
一方のジャンバラヤ氏は、さも神妙そうな表情で話す。
「このままだと、オレたちは間違いなく窮地に陥る。体力がまだ十分に回復していないのに、大勢の魔魚族を相手にするのだからな!」
「その通りですね……」
「オレさまは、いつも命懸けで戦う覚悟を持っている」
「それは僕も同じですよ」
「問題は別にある。この悪い状況をお伝えするかどうかだ。もしも知らせたとすれば、女王陛下は、オレたちを救うために危険を冒してでも行動なさる」
「はい」
肯定したキャトフィシュに向かって、ジャンバラヤ氏が思いを述べる。
「オレの正直な心境としては、この程度で女王陛下を煩わせたくない。しかし、これを伝えなければ、使い鷲に使者の役目をお与えになった女王陛下のご厚意が無駄になるという不本意な結果を招いてしまう」
「ううーん、なかなかに難しい問題ですねえ……」
「そうだろう。だから悩んでいるのだ」
「ジャンバラヤさん、ここは一つ、使者を任された当の本人に、判断を委ねてはどうでしょうか?」
「ああ、それしかない!」
「聞いての通りです。報告しますか?」
「きゅい!!」
シルキーが即答し、颯爽と飛び立つ。
「これでよかったのでしょうか?」
「よいか悪いかではない。こうする他、オレにはどうしようもなかった……」
思わず渋面を見せるジャンバラヤ氏である。
そんな彼の横顔に眼差しを向けながら、キャトフィシュは、「無骨そうに見えるけれど、意外に繊細な心をお持ちなのだなあ……」と感じるのだった。




