《☆~ 捜索(三) ~》
パースリは、さも決まりの悪そうな面持ちで話題を変えようとする。
「どうでしょう皆さん、そろそろ夕餉にしませんか?」
「がっほ、そいつは名案だぜ!」
不意に爛漫な顔面を見せてしまうショコラビスケだけれど、次の瞬間、表情を急激に硬くする。
「いや、つい間違ったぜ! キャトフィシュとジャンバラヤさんが酷い目に遭っている状況で、俺らだけ晩飯ってえ訳にいかねえ!」
「腹が減っては軍はできぬ」
「また常套の言い回しですかい?」
「その通りです」
パースリが平然と答えた。
突如、近くで「きゅるぅ~」という音が響く。
「あっ、済みません。お腹の虫が鳴きましたの……」
頬を染めてしまったラムシュレーズンを目の当たりにして、強硬な態度を貫こうとしていたショコラビスケも、さすがに妥協せざるを得ない。
「この俺も夕餉にしようってえ方針に賛同だぜ! 首領が空腹に苛まれたとあっては、さすがに泰然自若を続けられねえからなあ。がほほ!」
「では、先ほど頂いた食料を分配しましょう」
パースリは、パイクが餞別として置いていった荷袋から乾燥した黒い代物を取り出し、まずはラムシュレーズンに手渡す。
これを見たショコラビスケが、渋面で苦言を呈する。
「海藻かよ!!」
「他に食料がありません。なにしろ、大量に用意していた銀毛牛の乾燥肉と大海老入りの乾麺麭は今朝、食べ尽くしてしまいましたから」
「がほっ、確かにそうでさあ……」
今さらながら反省しても遅いとショコラビスケは気づく。胸の内で「ちょっとは先のことを考えて、食す量を抑えるべきだった」とつぶやき、パースリが差し出してきた海藻を、浮かない表情で手にする。
ピチャが「竜族の強壮剤なら、まだ残っていますから、是非ともお飲みになってはどうでしょうか。少しでも元気になれると思いますよ」と口を挟み、急ぎ馬車から小瓶を一つ運んできた。
ショコラビスケが嬉々とした顔面で受け取る。
「ありがとよ!」
「どう致しまして」
「それにしてもピチャさんよお、なかなかに気が利くじゃねえか?」
「自分の判断ではありません。こういう状況を見越して、政策官長さまから命令があったのです」
「サトニラさんが取り計らってくれたのか。今度会ったら、しっかり感謝の言葉を返さねえとなあ。がっほほほ!」
ショコラビスケは、快活に笑いながら強壮剤を飲み干す。
丁度この時、ようやくシルキーが舞い戻った。
彼は地下海域まで捜索に向かい、沖に浮かぶ小さな孤島で、気絶しているキャトフィシュとジャンバラヤ氏を発見したという。強壮剤を彼らの鼻にふり掛けて、意識を回復させたけれど、二人とも衰弱が激しいため、泳いで帰り着くのは無理な状況だと思われた。幸いにして潮の戻りが起きそうな気配がなかったので、こうして報告のために戻った。
これを聞き終えたショコラビスケが、意気揚々と口を開く。
「俺がキャトフィシュたちを助けに赴くぜ!」
「ボクも行きましょう」
「パースリさんは、泳ぎが得意ですかい?」
「いいえ、得意ではありません」
「がほっ! それならやめておくのが無難でさあ!」
「でも、ショコラビスケさんだけで、二人とも救い出すのは困難でしょう?」
「そりゃ当然だぜ。でもよお、順番に一人ずつ救ってやれば、二度手間には違いねえが、それでも万事やり遂げられるってえ訳さ!」
「仰る通りです。今のショコラビスケさんは冴えていますね」
「強壮剤のお陰ときたもんだ!」
「へえ~、そのような効果もあるのですか」
パースリは感服せざるを得ない。竜族の強壮剤が体力の増強だけでなく、頭脳を明晰にする効能を有しているだなんて、今までに考えすらしなかったのだから、これは無理もない。
ラムシュレーズンがショコラビスケの拳を握って話す。
「どうかご無事にお戻り下さいまし」
「おうよ!」
威勢よく立ち上がるショコラビスケに、パースリが言葉を掛ける。
「浮き袋を仕度します」
「なんですかい?」
「灰色熊の腸で作られた道具です」
パースリが、自身の背袋から、皮製のような長い代物を出した。
「こちらの穴から息を吹き込んで膨らませてから結ぶのです。水中で身体を浮かせる働きがありますよ」
「なるほど、そういう道具ですかい」
得心したショコラビスケが、袋を受け取って膨らませる。