《☆~ 捜索(二) ~》
引き続きジャムサブレーが冷ややかな口調で話す。
「兎も角、私たちがこちらに赴いた目的は、あくまで環境調査の一環に過ぎず、命懸けの探索をするつもりなぞ、毛頭ございませんでした。不運にも行方知れずとなられたお二人は、誠に気の毒ではありますけれど、救う手立てを得られない以上、洞窟内の捜索には協力できかねます。貴重な力豆をお与え下さったご厚意、並びに気絶している私たち二人を目醒めさせて頂けたことについては深く感謝し、改めてお礼をする所存です」
ジャムサブレーはお辞儀して、次はパイクに言葉を掛ける。
「第二大隊長官殿、帰国の途に就きましょうか?」
「ああそうだな。女王陛下、どうか悪く思わないで下さい。一つだけ言っておきますが、オレたちは、なにも臆病風に吹かれた訳ではありませんよ」
「プレイト将軍さまのお立場は、重重に承知しておりますわ」
「かたじけない。ああそれとヴィニガ子爵、魔魚族に関する初歩を教えて貰いたかったのだが、それはまたの機会に頼むとしよう」
「分かりました」
パイクは、「せめてもの餞別だ」と言って手持ちの食料と水をすべてパースリに渡した上で愛馬に騎乗し、ジャムサブレーとともに去ってゆく。
二人を見送った後、渋面のショコラビスケがおもむろに口を開く。
「首領、キャトフィシュとジャンバラヤさんはどうなるのですかい?」
「なにか、よい方策でもありませんかしら……」
ラムシュレーズンは決断できず思い悩む。彼らを助けたいのは山山だけれど、そのために他の者たちを危険に晒してしまっては、この上なく忍びない。
しばらく沈黙が続き、シルキーが捜索に向かうことを申し出てくれた。
「もしもお二人が洞窟の中で気絶しておられましたら、目醒めさせるために、これを少しばかり鼻にふり掛けるのがよいと思います」
ピチャが強壮剤の小瓶をラムシュレーズンに託した。
するとショコラビスケが、背袋から短い紐を取り出して手渡す。
「首領、こいつを使って下せえ!」
「はい」
ラムシュレーズンが紐で小瓶をシルキーの脚に結びつけてから、少なからず心配そうな表情で話す。
「あなた自身の安全保障には、どうか細心の注意を払って下さいまし」
「きゅい!!」
快諾の声を発するや否や、シルキーは颯爽と飛び立った。
ショコラビスケも腰を上げる。
「ちょっと行ってこようと思いますぜ!」
「お待ちになって」
「大人しく座っていられねえ! キャトフィシュが死んだとあっては、どんな面でマトンさんに伝えればいいのか、この俺には分からねえでさあ!」
「あたくしにも分かりません。キャトフィシュさんもジャンバラヤさんも、きっと生きておられると心の奥底で祈るしかありませんもの。ですから今は、シルキーさんが朗報を持ち帰るのを静かに待ちましょう?」
「がほほ。首領がそう仰せなら、やむを得ませんぜ……」
ここにパースリが口を挟んでくる。
「待てば海路の日和あり」
「がほっ、そりゃあ一体どんな意味ですかい??」
「じたばたすることなく、泰然自若を保ちながら待っていれば、必ずやよい結果を招くという常套の言い回しに他なりません」
「おうおう、まさしくパースリさんの仰る通り、俺さまは泰然自若になるぜ!」
「あたくしも同じ思いですわ」
「私もです」
ラムシュレーズンとシロミも賛同した。
夕刻が近いため、ショコラビスケは空腹に苛まれ始めるけれど、自ら進んで泰然自若になると断言したからには、ここで弱音を吐く訳にいかない。
シルキーが飛び立ってから一つ刻ばかりが過ぎても、彼は帰還しなかった。
とうとうショコラビスケが痺れを切らす。
「おうパースリさんよお、これだけ泰然自若に待っても、一向に海路の日和がねえのはどういう道理でさあ?」
「さすがに、そこまではボクにも分かりようがありません。待って海路の日和なしと呼ぶべき状況に陥っているのでしょうね」
「なんだそりゃ!!」
すっかり拍子抜けのショコラビスケだった。




