《☆~ 捜索(一) ~》
先導の役を担うシルキーが逃げやすい経路の上を飛んでくれるので、ショコラビスケが迷わず進める。彼に運ばれているラムシュレーズンは、身体の後ろから強く押しつけてくる水の圧力を感じて、そのまま意識を失う。
女王陛下の生命を背負うショコラビスケは、甚大な重みを感じながらも、この窮地を脱するために、渾身の気持ちをふり絞って耐え抜こうと踏ん張る。
「がっほ!!」
とてつもなく激しい勢いの海水が、容赦なく口や鼻から入り込んだ。
「これしきで死んじまう訳にいかねえ! たとい俺がくたばろうとも、首領ラムシュレーズン女史だけは助けてみせるぜ! そうでなけりゃ、この俺さまは死んでも死に切れねえ!!」
辛うじて倒れることなく、ショコラビスケが洞窟の出口に到達できた。
潮の戻りが押し寄せてくるけれど、空間の広がっている地上では、海水が四方八方へ散らばって流れるため、最早なんら猛威ではなかった。
待機を命じられていたピチャが事態を知り、御用達馬車から出てきた。
「なにが起きたというのでしょうか??」
「説明の暇はねえぜ、首領が気絶しちまっているのでさあ!!」
ショコラビスケが早口で話すと同時に、運んできたラムシュレーズンを背中から降ろして、そっと地面の上に寝かせた。
シルキーが心配そうな表情で眺めている。
「分かりました」
状況を理解できたピチャが馬車へ向かい、すぐ戻ってきた。
彼の右手に小瓶が一つ握られており、目の当たりにしたショコラビスケは、少なからず怪訝そうな表情で問う。
「そりゃあ一体なんですかい?」
「暗黄緑飛竜の血で作られた薬剤です」
「もしかすると、そいつは竜族の強壮剤でさあ!?」
「仰せの通りです。しかしながら、服用に使おうというのではありません。この強烈な匂いを少しでも嗅げば、目醒めを促す効果が期待できると思うのです」
ピチャが小瓶の蓋を外し、寝ているラムシュレーズンの鼻先に近づける。
「むっ!!」
一瞬にしてラムシュレーズンが意識を取り戻す。
ショコラビスケは感心せざるを得ない。
「ピチャさんよお、竜族の強壮剤に、まさかこんな使い方があっただなんて、俺は生まれて初めて知ったぜ!!」
「あたくし、助けて頂けましたのね……」
「おうよ! 今回ばかりはどうなることかと肝が冷えたが、俺は自分の脚力を信じて、ひたすら突っ走りましたぜ! がっほほほ!!」
「他の方々は?」
「がほっ、そうだった!」
ショコラビスケが周辺を見回し、お馬の縦幅で十頭分ばかり離れた位置に倒れているパースリとシロミの姿を発見した。
「ピチャさん、強壮剤を借して下せえ!」
「あ、どうぞ」
小瓶を受け取ったショコラビスケが颯爽と駆け出す。
ラムシュレーズンは、体力のすべてが回復し切っておらず、この場に残り、洞窟の奥で起きた事件の一部始終をピチャに説明する。
シルキーは、上空から捜索してパイクとジャムサブレーを見つけた。
パースリとシロミも意識を取り戻し、ラムシュレーズンがいる場所までゆっくり歩いてくる。
ショコラビスケは、シルキーから教わった場所へ赴き、パイクとジャムサブレーを助けるのだった。
シルキーが引き続き大空を飛行して捜索するけれど、キャトフィシュとジャンバラヤ氏の姿だけは、地上のどこにもない。
夕刻が近づいてきており、七人と一羽が円形になって座り、これからの行動について議論を始めた。
重苦しい雰囲気の漂う中、パースリが神妙そうな面持ちで話す。
「見つからない二人は、考えたくありませんけれど、推察は一つです。つまり彼らは、洞窟の内部で海水に飲まれたのでしょう」
「がほ!」
「……」
今のラムシュレーズンには出せる言葉が見当たらない。
代わりに、硬い表情のシロミが口を開く。
「急ぎ洞窟へ戻り、お二人を捜索しましょう」
「シロミさん、よくぞ決断してくれたなあ! この俺も賛同するぜ!」
ここにパイクが口を挟む。
「危険が過ぎるぞ! いつまた、あの激しい潮の戻りが発生するか、まったく予想できないのだからな」
「そうね。フコイダンさんが話した通り、陸人類にとって、地下海域は謎と危険に満ちていることが痛いくらいに分かった今、洞窟に戻るのは、身のほど知らずに相違ありません」
こう言われてしまうと、ショコラビスケとシロミには反論の余地がない。




