《★~ 銀海竜の言葉(一) ~》
フコイダンが「どうやって海水溜まりから銀海竜を救い出すのか?」や「万が一にも失敗となって、銀海竜を酷く苦しめてしまわないか?」という意味のことを尋ねてきた。
これに対して、パースリが「ボクたちのやろうとしているのは、ラムシュレーズン女王陛下が考案なさり、緻密さを持ち合わせた方策ですから心配は無用です」と胸を張って答えた。
そして、いわゆる「三度目の正直」と言わんばかりに威勢よく、銀海竜救出作戦をやり直そうとした矢先、またしても横槍が入り、中断を余儀なくされる。
新手の五人からなる魔魚族の集団だった。たちまちにして、フコイダンたちとの間で口論が始まる。
「おう、奴らはどういう料簡でさあ?」
ショコラビスケの問いに、メカブが「あれらは捕海竜推進派の輩たちです」という意味の言葉を返してきた。つまり、海竜を捕獲して食材にすることを積極的に奨励する組織的集団で、海竜保護団体と対立しているのだった。
パースリが補足的説明を加える。
「海水溜まりにいる銀海竜を先に見つけたのは自分たちだと、互いに言い張っているようです」
「どっちが先かってえのなら、もちろんメカブさんに決まっているでさあ? なにしろ、捕海竜推進派の連中は、たった今ここへ現れやがったのだからなあ」
「いえ、彼らの一人がもっと以前に見つけて、捕らえるのに人手が必要だから、仲間を呼びに行っていたのだと主張しているようです」
「なんだそりゃ!」
ショコラビスケとパースリが会話をしている間に、二つの魔魚族集団が、まさに一触即発と呼ぶに値する状況に陥っている。
ラムシュレーズンが咄嗟に機転を利かせて、解決策を話す。
「銀海竜のパフェさんに、《あなたを先に見つけたのは、どちらのお方ですか》とお尋ねになってはどうでしょう」
「おうおう、そいつは名案だぜ! さすがは首領でさあ!」
ここにパイクが割り込んでくる。
「パフェは、果たして真実を語るのか」
「がほっ! そりゃあ一体どういう意味ですかい?」
「ショコラは分からないか。捕海竜推進派の輩が先に見つけていたのだとしても、パフェは捕獲されたくないがため、《メカブが先に自分を見つけた》と偽りを話すのではないかと、オレさまが推察したという意味だ!」
「パイクさんよお、そいつは考え過ぎですぜ!」
「いや違うな。お前の方こそ、考えが足りないのだ。わははは!」
「がっほ、そりゃあそうだぜ! パイクさんに一本取られちまった」
言い負かされたショコラビスケの代わりに、パースリが異を唱えてくる。
「ボクはパイク殿の推察が間違っていると思います」
「なんだと!?」
「竜というのは、高潔で誇り高い精神を持っています。たとい自身が危険に晒されようとも、決して偽りの言葉を口にしません」
「ヴィニガ子爵、それは本当か??」
「もちろんですとも。偽りを話さないのは、全世界学者も同じです」
「うむぅ……」
言葉を失ったパイクにショコラビスケが追い打ちを掛ける。
「あんた、パースリさんに一本取られちまったなあ。がほほほ!」
「……」
パイクは、苦虫を噛みような表情を隠し切れない。
魔魚族たちも、銀海竜の言葉に砂粒の大きさすらも偽りはないと信じており、ラムシュレーズンが提案した方策を採用することに決めた。
パフェから真相を聞き出すために、海竜保護団体を代表してフコイダンとメカブが、海水溜まりの中に入った。捕海竜推進派からも、最初にパフェを見つけたと主張する者を含めた二人が名乗りを上げて、フコイダンたちの後に続く。
ショコラビスケが、自信を持ったような顔面で口を開く。
「この俺さまは、メカブさんが第一発見者だってえ真相を、きっとパフェが打ち明けてくれると思っているぜ!」
二分刻ばかり待ったところ、海水溜まりから四名の魔魚族が戻る。
早速、ラムシュレーズンが問い掛ける。
「どうでしたの?」
「メカブが先ぢゃったなもし」
フコイダンは嬉しそうに返答した。
ラムシュレーズンも喜びの言葉を放つ。
「まあ、よかったですこと!」
捕海竜推進派の五人は、潔く負けを認めて立ち去った。




