《★~ 魔魚族の脅威(二) ~》
捕らわれの身となった輩の顔面は、口の先が鋭く尖り、二つの目玉が異様に大きくギョロリとしていて、まさに奇天烈と表するより他はない。
まだ怒りの収まり切らないショコラビスケが、興奮した口調で話す。
「俺らは、首領ラムシュレーズン女史たちのおやりになろうとされている銀海竜救出作戦を傍観しようと意気込んで目を凝らしていたのですがね、そこへ、こいつが海水溜まりから唐突に姿を現すのでさあ。なにをしでかすつもりかと俺が思いつく暇もねえまま、パースリさんに向けて吹き矢を飛ばしやがった!」
「悪い行いですこと」
「まったくでさあ! しかも次は、首領かジャムサブレー女史を狙うつもりだったのか、二の矢を放つ構えをしやがるものだから、この俺さまが取っ捕まえてやろうと思いましたが、パイクさんとジャンバラヤさんに先を越されちまいました。それでパイクさんが捕らえたこいつに《お前はなにものだ!》と問い掛けて、するとこいつは《こちとら魔魚族でごんす》だなんて、こんな惚けた顔面で白状しやがったのでさあ。まあ、首領とジャムサブレー女史は掠り傷一つ負わねえで、パースリさんだけは気の毒でしたが、それでも生命に別状なさそうですし、不幸中の幸いに違いねえぜ。がっほほほ!」
いつもの四倍も饒舌になっていたショコラビスケが、思いのすべてを吐き出したらしく、ようやく黙るのだった。
丁度この時、パースリが目醒めて口を開く。
「ボクは一体、どうなっていたのでしょう??」
「ヴィニガ子爵さんは、不届きな輩に毒矢で射られまして、右肩を負傷すると同時に、気絶なさっておられたのです」
「なるほど、得心できました。それでボクの意識が途切れているのですね。あ、それより女王陛下の仰せになった不届きな輩というのは、パイク殿とジャンバラヤ氏が押さえつけている魔魚族のことでしょうか?」
パースリの言葉を聞いて、総員が彼に視線を注ぐ。皆は、直面している「驚異の遭遇」について、なにかしらの説明を期待しているのだった。
この瞬間、魔魚族が唐突に叫び声を発する。
「掌の水!」
輩は身体の前に両手を揃えさせられ、頑丈な綱で縛られているけれど、どういう訳か、掌から水を吹き出させる。
まさに不意打ちだった。二つの曲線状になった高速の水が、パイクとジャンバラヤ氏の顔面を穿つかのように突く。
「ぐわあ、痛い!」
「うぅ、目をやられた!」
僅かな隙が生じたので、魔魚族は束縛から逃れた。
「わっ、しまった!」
「この畜生め!」
二人が地団駄を踏んで悔しがるけれど、俊敏な魔魚族は、あっという間に地下海域の方へ走り去ってしまう。
シルキーが翼を広げ、「追跡しましょうか?」とお伺いを立てる。
これに対してラムシュレーズンが「お願いしますわ」と即答したので、白頭鷲は颯爽と飛び立つ。
反撃を食らったパイクとジャンバラヤ氏、そしてなにもできなかったショコラビスケは、苦々しい思いをさせられ、呆然となってしまった。
一分刻ばかり沈黙が続いた後、ラムシュレーズンが口を開く。
「ヴィニガ子爵さんは、魔魚族という亜人類をご存知ですの?」
「はい」
「以前にも、お会いになったのかしら?」
「いいえ、本日が初めての遭遇となりました」
「そうですのね」
ここへショコラビスケが口を挟んでくる。
「初めてだってえのに、どうして魔魚族だと分かったのですかい?」
「あの独特な顔面を目の当たりにして、そうに違いないと確信しました。魔魚族については、全世界古文書に記載されていて、その姿が絵に描かれていますので」
「がほっ! 全世界古文書ってえのは、なんでも載ってやがるのか!」
ショコラビスケは感服せざるを得ない。
その一方で、パイクが神妙そうな表情でジャムサブレーと話している。
「魔魚族は、我らドリンク民国の脅威になるだろうか?」
「どうでしょうねえ。私たちは、その未知なる亜人類について、砂粒の大きさすらも知識を持ち合わせていませんから、ここは一つ、全世界学者さんにご教示を賜わるのが最善の策かと思います」
「確かにそうだな。ヴィニガ子爵、聞いての通りだ。どうかオレたちに、魔魚族に関する初歩を教えてくれ!」
「承知ですけれど、銀海竜の救出はどう致しましょう?」
パースリがラムシュレーズンに視線を移す。
「先に済ませましょう。プレイト将軍さま、構いませんか?」
「もちろんですよ」
パイクは素直に賛同した。




