《☆~ 銀海竜救出作戦(二) ~》
しばらく口を閉ざしていたジャンバラヤ氏が、唐突に問いを発する。
「結局のところ、どうやって銀海竜を救出するつもりだ?」
即答できる者がおらず、ジャンバラヤ氏はさらに続ける。
「錬金発破弾の一つでもあればだと? ないものを当てにするのは無意味だ。それよりもなにか、今すぐ使える道具はないのか!」
他の者は黙ったまま聞いているしかなかった。
そんな中、ラムシュレーズンが、ジャンバラヤ氏の言葉に触発されて、思い当たる節を感じた。懐から黒い石を取り出して、皆に見せる。
「あたくし、二系統の魔石を持っていますの」
魔力を感じ取ったジャムサブレーが、おもむろに口を開く。
「純水‐樹林という二系統ね」
「はい。これを役に立てることはできないものでしょうか?」
「ちょっと分からないわね。私は魔法具にあまり詳しくないから」
ここへパースリが口を挟んでくる。
「海水のように価値の低いものに対してであれば、増せという掛け声が有効かもしれません。でも、せいぜい二倍くらいに増水させるのが関の山です」
「増幅効果を同時に詠唱すれば、八倍になりますわよね?」
「あっ、そうでした!!」
パースリの脳裏に、アラビアーナの地下迷宮を探索した際の記憶が、まるで雷光が走るかのように蘇った。最深層の奥で、高い垂直の障壁に阻まれ、上まで飛ぼうとするけれど、ショコラビスケだけは重過ぎるため、賢者の石を使う「浮かべ」の掛け声が通用しなかった。その後、オイルレーズンから助言を貰い、増幅効果という魔法を併用することで、ショコラビスケの巨体を崖の上まで浮かばせる企てに成功した。
パースリは頭を掻きながら話す。
「あの折、ボクは感服するあまりオイル伯母さんに称賛の言葉を送りました。しかしながら、《戯け》とお叱りを受ける結果を招いたものです。今日もすっかり忘却していて、ラムシュレーズン女王陛下に思い知らされ、二度目の不覚を取ってしまいました……」
「お気になさらずとも構いませんわ。あたくしも、ジャンバラヤさんが《今すぐ使える道具はないのか!》と発破を掛けて下さったお陰があって、ようやく思い出したところですもの。うふふふ」
「首領、ジャンバラヤさんが葉っぱを掛けたってえのは本当ですかい?」
「ええ、そうですわ」
「どんな葉っぱですかい?」
「ですから、《今すぐ使える道具はないのか!》と」
「がほ??」
二人の噛み合わない会話にパイクが割り込んでくる。
「おいショコラ、お前は、たぶん発破を、木の葉っぱかなにかと勘違いしているのだろう」
「そうじゃねえのですかい?」
「やれやれ」
パイクは呆れた表情で、「発破を掛ける」の意味を説明した。
すると、得心に至ったショコラビスケが嬉々として話す。
「また一つ言葉を覚えたぜ!」
「ショコラ兄さん、言葉という言葉には、言の葉という古い表現もあるみたいですよ」
「おうキャトフィシュ、お前は俺と違って、なかなかに学者だなあ」
「お褒めの言の葉、ありがたく存じます!」
「がほっ! 今ここで、わざと古い表現を使いやがるとは、小癪な奴だぜ!」
「申し訳ありません。つい図に乗ってしまいました」
パイクは「お前らの会話、まどろっこしいぞ!」と感じるけれど、悪い雰囲気が漂いそうだと思い直し、口には出さなかった。
続いて、ジャムサブレーが自らの意見を述べる。
「ラムシュレーズン女史がお考えになった方策は、愚案とまでは申しませんけれど、うまく功を奏すでしょうか。私が思うのは、どのように海水を流れ出させるのか、そして流れ出たにしても、その海水が左右に広がって地下海域まで到達しないのではないかという二つです」
「それらの懸念に対処するために、呼び水と直進を増幅効果に併用して施すのがよいと思っていますわ」
「へえ~、緻密さを持ち合わせた方策ですね。でも三重の混成魔法は、さすがに肩の荷が重過ぎませんか?」
「はい。ですから、ジャムサブレー女史に、いずれか一つをお任せできないものかと思います。いかがでしょうか?」
「ええ、構いませんわ」
ようやく銀海竜救出作戦の方針が定まった。