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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART10 前人未踏の地下海域》謎と危険に満ちた地下海域
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《☆~ 銀海竜救出作戦(一) ~》

 やがて海水溜まりの上空にシルキーの姿が現れ、一直線ビーライン、疾風のように飛んで戻り、見知ったことを細かく報告してくれる。

 海水溜まりは円形サークルに近い形状をしており、対岸までお馬の縦幅で千頭分の隔たりがあり、中央が最も深く、お馬の背丈で四十頭分くらいだという。

 周囲の地形は、こちらから見て左手側が少なからず崖のように隆起していて、右手側は比較的に平坦な白い砂の地面が続く。

 対岸の向こうに緩やかな下り坂があり、お馬の縦幅で、ざっと三千頭分を進んだ先に地下海域が見つかった。

 海水溜まりから、お馬一頭分の縦幅と同じくらいの川幅で、地下海域に向かって水が流れ下り、高低差はお馬の背丈で二十頭分になるとのこと。

 これらの報告を聞き終えたパースリが、神妙そうな表情で見解を述べる。


「銀海竜を救うには、川を有効に活用する方策を考えるのがよいと思います」

「川の幅と深さを広げて、銀海竜の逃げ道にするのですね?」


 シロミが問い掛けた。

 横からパイクが唐突に口を挟んでくる。


「言うのは容易く行うのは困難という方策だなあ。たった八人と一羽で、それだけの大仕事を地道に成し遂げるなら、数十日を要するに違いない」


 この見解に対して、パースリが頭を一つ縦に振ってから言葉を返す。


「仰せの通りです。でも懸念は、それだけに限っていません」

「他にもなにかあるのか?」

「はい。まずは川をき止める必要があります。そうしておかなければ、川幅を広くした頃には、海水が少なくて、銀海竜が泳げないでしょうから」

「だったら、さっさと塞き止めに行きましょうぜ!」


 威勢よく駆け出すショコラビスケは、砂の地面に足を取られてしまい、転倒フォールを余儀なくされた。

 ラムシュレーズンとキャトフィシュが、急ぎ近寄って言葉を掛ける。


「お怪我はありませんか?」

「ショコラあにさん、しっかりして下さい」

「おうおう、この俺さまとしたことが迂闊うかつだったぜ。なんとか怪我を負わずに済んだから、心配は無用でさあ」

「そうですか。不幸中の幸いですわねえ」

「くれぐれも気をつけて、行動しなければなりませんよ?」

「キャトフィシュの言う通りだぜ。がほほ!」


 気を取り直したショコラビスケが、今度は慎重に歩き始め、他の者たちも後に続く。

 右手側から海水溜まりの周囲に沿って、ゆっくり半刻ばかり進み、ようやく対岸に辿り着いた。

 シルキーが報告してくれた通り、小さな川の流れがある。これを目の当たりにしたショコラビスケが思わず口を開く。


「がっほ! 銀海竜はおろか、小柄な首領キャプテンラムシュレーズン女史ですら泳げねえくらい、底が浅くなってやがる!」

「あら、たとい十分に深くとも、あたくしは泳げませんわよ」

「そりゃあ一体、どういうことでさあ??」

「あたくし、まったく泳ぎができませんもの」

「がほっ、そいつは失礼しましたぜ!」


 兎も角、総員が川を塞き止める作業を開始する。

 使う砂が周辺にいくらでもあり、それに加えて川が小さく浅いから、半刻ばかりで目的を達成できた。

 パースリが真剣な面持ちで話す。


「これで海水の流出を防げました。残った問題は、銀海竜が逃れられるだけの経路を造る方策を考えつくことです」

「地下海域までの距離は、お馬の縦幅で三千頭分にも及ぶのでしょう。誰がどう考えても、川を大きく広げようという着想だけは、愚案ナンセンスと呼ぶ他ありません」


 ジャムサブレーが、冷ややかな口調でキッパリと言い放った。

 この時、パイクがおもむろにつぶやく。


錬金アルケミ発破弾(‐ブラスト)の一つでもあればなあ……」

「がほっ! そりゃあ、なんですかい??」

「一般の若い人族や亜人類は、ほとんど知らないのだろうなあ。強烈な爆発を起こす道具アイテムで、山から岩を切り出したり、採掘のために穴を掘ったりするのに重宝するらしいぞ。それが戦争で使用され、敵味方の区別なく、多くの軍人が一瞬にして命を落とす最悪の事態トラブルを招いたせいで、今となっては、作ることさえ固く禁じられている代物だ。それを知る年老いた軍人の中には、錬金発破弾という言葉を、口にするのも耳にするのも禁忌タブーだと嫌悪する者が多い」

「禁断の調合として、国際条約で必ず使用禁止が指定されますね」

「そのようにおそろしい道具、作らないに越したことはありませんわ」


 ラムシュレーズンが思わず身震いした。

 一方、パースリは、もう一つ補足的説明を加える。


「錬金発破弾の調合を思いついた錬金術者アルケミストは、世の中に役立つ道具を作りたいという一心で、自身の仕事を全うしたに過ぎないのですけれどね」

「そうですか……」


 パースリの言い分も、まったく理解できない訳ではないけれど、ラムシュレーズンは、胸の奥底で「大勢に死をもたらす危険をはらんでいる道具なぞ、なくても構いませんわ」と強く思うのだった。

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