《☆~ 竜族や栄養官の話(一) ~》
キャロリーヌが老魔女に尋ねる。
「そうしますと、成熟した金竜の逆鱗が手に入らなければ、ファルキリーは、そのラムシュレーズンさんは、ずっとお馬さんの姿なのですね?」
「そうじゃとも」
「すぐに、どうにかなりませんの?」
「あたしも急いでなんとかしてやりたいとは思うのじゃが、金竜や銀海竜なぞ凶竜との戦いは、まさに命懸けじゃからのう。これまで、あたしも死なずに済んでおることが奇跡に近いくらいじゃ」
「沢山の面子を揃えて戦えばよろしいのでは?」
「大勢で挑み掛かって逆鱗を奪うことができたところで、分け前がずいぶんと減ってしまうわい。僅かな量の金竜逆鱗じゃと、ファルキリーに掛かっておる呪いは、とても解けぬからのう」
「そうですか。なにかよい方策があれば……」
肩を落とすキャロリーヌである。
この少女のがっかりする姿を眺めながら、オイルレーズンは目を光らせた。
「方策は一つじゃ」
「えっ、それはどのような?」
「かつてないほどの極めて屈強な竜族を、地道に育てることじゃ。金竜の吐く業火で丸焼きにされぬくらいに頑丈な肉体を持つような、史上最強の竜族が必要となるでのう」
「そのような竜族の人を、探索者集団に加えようというお考えですの?」
「ふむ」
「ではどうすれば、そんなにも強い竜族を育てられるのでしょうか?」
「良質な栄養を含む料理を、たっぷりと与えることじゃ」
「どのような食材を使えばよろしいのかしら?」
料理という言葉が出たことで、キャロリーヌの声の調子が上がった。
オイルレーズンは再び目を光らせる。
「人族が食する料理に使う食材ではどうにもならん。最も優れた食材は、トリガラ魔窟に生えておる竜編笠茸じゃ」
「マシュルームの一種ですの?」
「そうじゃ」
「トリガラ魔窟というのは、どこにありますの?」
「知らぬかのう。メン自治区の南東にあって、わりと有名な洞窟なのじゃが、特に上級探索者で知らぬ者はおらぬわい。ふぁっはは」
グレート‐ローラシア大陸は、現在のところ四つの国と一つの地域で構成されている。北西部のエルフルト共和国、南西部のドリンク民国、中央のローラシア皇国、北東部のパンゲア帝国、そして特別な自治を認められた東部の小さな地域。
自治の地域は十四年前までパンゲア帝国の領域であったけれど、内紛が起こり、それから一年後にエルフルト共和国が介入することで戦争が勃発した。
三年を掛けた戦いは、パンゲア帝国の条件つき降伏で終わり、結果として、メン自治区が誕生することになった。
この地域はローラシア皇国の東側に位置しており、竜族、獣族、小妖魔が多く存在しているため、危険度がとても高い。そればかりか、住んでいる人族も野蛮な荒くれ者が大半を占めているという。
そのような場所に、トリガラ魔窟と呼ばれる魔の洞窟があるのだった。