表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART10 前人未踏の地下海域》謎と危険に満ちた地下海域
407/438

《☆~ 奇妙な洞窟(三) ~》

 シロミが薄く笑みを浮かべ、パースリに話し掛ける。


「陸地が広がると、人族や亜人類の暮らせる場所が増えますね」

「そうは卸問屋ホウルセイラが卸してくれません」

「ええっ、それは一体どうしてでしょうか?」


 シロミの疑問にパースリが答えようとしたところ、ショコラビスケが唐突に口を挟んでくる。


「卸問屋が卸してくれねえとなると、料理屋は商売にならねえし、俺たちも食わせて貰えねえから、さぞかし困っちまうでさあ?」

「そのままの意味で話しているのではありませんよ」


 パースリは、辟易したような表情と口調で説明を試みる。


「引き潮によって現れた広い陸地は、人族や亜人類が暮らすのにふさわしい環境を与えてくれないということです」

「つまり、いくら土地が広くても、俺たちは住めねえのですかい?」

「はい。雨が降らず川も形作られないため、農作物が育ちませんから、動物も寄りつきません。飲食物の類が得られない以上、誰も、こんな辺鄙へんぴな場所で生活したいと思わないのです」


 黙って聞いていたラムシュレーズンが、単刀直入に問う。


「皆で協力して、人族や亜人類が住めるようにできませんの?」

「なかなかに難しいと思います。苦心して畑や村を作ったとしても、次の満ち潮で海域の底に沈みますから」

「確かに、ヴィニガ子爵さんの仰る通りですわねえ……」


 食事と休憩を済ませたシルキーが、自ら進んで偵察の任務を引き受ける。

 ラムシュレーズンたちは、他愛のない会話を続けていた。

 それから四半刻ばかりが過ぎる頃、シルキーが戻ってきて、「ドリンク民国の軍務省で第二大隊長官(キャプテン)を務めるパイク‐プレイトさん、並びに環境庁副長官(サブキャプテン)の地位にあるジャムサブレー女史が、それぞれ愛馬を駆り、北西の方角から奇妙な(キュアリアス‐)洞窟キャヴァンに接近中です」と状況報告をした。

 これを聞いたシロミが、怪訝そうな表情で言葉を発する。


「ドリンク民国の役人さんが、たった二人で、このような殺伐とした大地に、なんの目的でお越しになったのでしょうか?」

「ボクが推察したところ、環境調査の一環だと考えられます」


 パースリが平然と答えた。

 やがて御用達馬車は、縦幅がお馬の高さで三頭分、横幅がお馬の縦幅で二十頭分くらい広い洞窟の入り口に到達した。

 二分刻(ミニト)ばかり後、漆黒(ブラック‐)竜号ドラゴンという大袈裟な名前のお馬に乗ったパイク、および赤い牝馬に乗った樹林フォレスト系統魔女族のジャムサブレーが駆けつける。

 地面に降り立ったパイクがラムシュレーズンの顔面に視線を注ぎ、開口一番、お悔やみの言葉を発する。


「深い心の谷底から、哀悼モーニングの意を表します! ジャムサブレーから、仔細を聞き及んでおります。なんでも先々月の十二日目、雷金光の日(ライトニング‐デイ)、あの偉大なオイルレーズン女史が身罷みまかられたのだと」


 パイクは、以前と違って、慎重な言葉使いで話している。

 一方のラムシュレーズンが、軽く頭を下げて答える。


「ご丁寧なお言葉、ありがたく存じます」

「いやあ、どう致しまして。ところでキャロリーヌ嬢、おっと失礼! 今や、ラムシュレーズン女王陛下という、特別なお立場なのでしたね」

「お気になさらずとも構いません」

「では僭越ながら、質問を続けさせて頂きます。パンゲア帝国の女王陛下ともあろうお方が、どういう風の吹き回しで、こんな殺伐とした地帯ゾウンに、お足をお運びになられたのでしょうか?」

「あたくしは、たとい女王の立場になろうとも、探索者イクスプローラとしての身分に、なんら変化を感じません。当初は銀海竜討伐が目的でしたけれど、引き潮が起きてしまい、それでも、この奇妙な洞窟にやってきましたのは、地下海域を探索しようという思いがあるからです」

「気丈な心意気をお持ちだ! いっそう惚れてしまいました。わはは!」


 快活に笑い声を発するパイクである。

 そんな彼に向かって、ずっと口を閉ざしていたジャンバラヤ氏が、辛辣スィヴィアな言葉を投げ掛ける。


「どれだけ惚れたのか知らないが、たかが()()()だ。それと比べて、オレさまは記憶にないものの、ラムシュレーズン女王陛下に、以前、二度も立派に求婚プロポウズして、見事に失敗ファイリャした経験がある!!」

「あんた誰だ?」


 パイクが鋭い視線で尋ねた。


「オレさまは、鎖鎌の使い手であり、ラムシュレーズン女王陛下の従僕騎士ヴァレイナイトだと自らを認めている、アンドゥイユ‐ジャンバラヤだ!」

「ふん、そんなことくらいで威張るな! このパイク‐プレイトには、紛れのない記憶がある。オレは、かつて女王陛下がキャロリーヌ‐メルフィルと名乗っておいでの頃、求婚をお受け頂けたにも拘わらず、諸諸もろもろの支障があると知り、婚約を破棄される結果を招いた! わっははは!」

「ま、まさか!? 女王陛下、彼の言葉は本当なのでしょうか??」

「ええ、仰せの通りよ。誠にお恥ずかしい限りですわ……」


 思わず頬を染めてしまうラムシュレーズンだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ