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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART10 前人未踏の地下海域》銀海竜の棲む南方海域
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《★~ 南方海域(一) ~》

 ホイップサブレーが、ラムシュレーズンの首を見つめながら問う。


「ずっと死鏡デスミラを身につけているのだねえ?」

「はい。これを備えていればこそ、銀海竜討伐に赴けますの」


 ラムシュレーズンが胴着ヴェストの中から、円形サークルの枠につけられた魔法具を取り出す。

 一方、ホイップサブレーは、神妙そうな表情で話す。


「もうそろそろ、死鏡それの効果が消える頃だよ」

「えっ、本当ですの!?」

「オイルから聞いていなかったかい?」

「ええ、初耳ですわ。どのくらいの間、効果が続くのかしら……」

「百五十日といったところだねえ。完成品を渡したのはいつだったかな?」

「第八月の十六日目です。あたくしと祖母が、宮廷官職を辞任した日のことでしたから、しっかりと覚えておりますわ」


 ここへパースリが口を挟んでくる。


「今日で百十七日が経過しますから、あと三十三日だけ使えますね」

「さすがは全世界ユーニヴァース学者(‐スコラ)さん、計算が迅速です!」


 キャトフィシュが、思わず感嘆の言葉を放った。

 横にいるショコラビスケも嬉々として話す。


「おうおう、三十三日もあるのなら大丈夫だぜ!」

「いいや、そうとは限らないよ。想定より短いならば、百五十日が過ぎる前に使えなくなることも、あり得るからねえ」

「がほっ!?」

「どうにかして、効果を延ばせませんの?」


 ラムシュレーズンが、わらにもすがる思いで尋ねた。

 しかしながら、ホイップサブレーは頭を大きく横に振る。


「とうてい無理だねえ。新しく作り直すしか、なす術がないのだから」

「分かりましたわ。こうなってしまったからには、急ぎ南方海域へ赴いて、銀海竜討伐を済ませましょう!」


 ラムシュレーズンの号令で、皆が腰を上げる。

 一行はホイップサブレーに別れを告げ、慌ただしく魔法具の(インストルメント‐)工房アトリエを出た。


 中央門の外には、パンゲア帝国王室の御用達馬車が停まっており、すぐ傍に政策官のピチャ‐ピヂョンが直立不動で控えている。

 丁度ここへ、検問を通過クリアしたラムシュレーズンたちが姿を現す。

 ピチャは、深々と頭を下げて口を開く。


「お待ちしておりました。準備は万端でございます」

「それでは、すぐに出立しましょう!」

「畏まりました」


 馭者ドライヴァを務めるピチャは、ラムシュレーズンたちが御用達馬車に乗り込むのを待った上で馭者席に座り、南へ向けて走らせる。

 静かに揺られる馬車の中、シロミがラムシュレーズンに問い掛ける。


「海中で戦うのでしたら、相当に寒いのでしょうね?」

「あたくしは一度すら訪れておりませんけれど、南方海域は冬でも、少なからず暖かいと聞き及んでいますわ」

「でしたら、凍えてしまうという心配は無用なのでしょうか?」

「ええ、そうですわね」


 二人の会話にパースリが割って入る。


「海水は冷たくありませんけれど、風がなかなかに強く吹きますから、気をつけていなければなりません」

「ヴィニガ子爵さんは、南方海域へ赴かれたことがありますの?」

「はい。調査の目的で三度出掛けています。すべて季節は冬でした。最後に訪れた際、突風のせいで転倒してしまい、大切な帽子が飛ばされたという苦い経験が、今なお忘れられません……」

「それは誠にお気の毒でしたわねえ」


 ショコラビスケが、威勢よく口を挟む。


「だったら、たとい強い風が吹いても倒されねえように、腹を満たして、せいぜい身体を重くしておくに限るぜ!」

「ショコラあにさん、なかなかに名案ですね」

「そうだろキャトフィシュ、お前もなるべく沢山食っておけよ」

「了解しました!」

「お二人とも、食べ過ぎはよくありませんわ。特にショコラビスケさんは、いつかのように動けなくなりましてよ?」

()()()ってえのは、一体いつですかい?」

「言い直します。()()()のことですわ」

「がほっ!! 首領キャプテンラムシュレーズン女史に、一本取られちまったぜ!」


 しばらく皆で他愛のない雑談を続けていた。

 馬車がヒエイー山麓東街に入ったところ、珍しいことにパースリがショコラビスケよりも早く、昼餉の話題を持ち出すのだった。


「この通りを進むと、名物ローラシア南部料理、熊肉の燻製入り炊米飯ピラーフが美味しいと評判のお店がありますよ」

「俺はパースリさんに賛同するぜ。キャトフィシュも、そう思うだろう?」

「はい!」


 こうして、一行は「灰色熊(グリズリ‐ベア)」という名の食事処ビストロに立ち寄る。

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