《★~ 金剛石棒の使い方 ~》
眩く透き通った光を放つ金剛石棒を目の当たりにしたホイップサブレーが、俄かに瞳を輝かせて話す。
「出し惜しみをしないパースリの心意気は、称賛に値するねえ」
「いえ、それほどでもありません」
「ラムシュちゃん、金剛石棒を十本出すなら、その魔石に樹林を加えて二系統に作り変えてあげるよ。きっと、銀海竜討伐の役に立つに違いない。おぽぽ」
「どう致しましょうかしら……」
ラムシュレーズンは、戸惑いながらパースリの顔面に視線を注ぐ。
ここへショコラビスケが口を挟む。
「首領、金剛石棒を十本使って魔石を二系統にして貰うくらいなら、最高級の肉料理で腹を満たす方が、よほど賢明だと思いますぜ。なあキャトフィシュ、俺さまの考えに賛同するだろう?」
「僕は、どのように判断してよいか……」
唐突に尋ねられ、返答に窮するキャトフィシュである。
すると黙って聞いていたジャンバラヤ氏が、険しい表情で口を開く。
「ショコラビスケ、お前は考え違いをしている。まさしく愚か者だ」
「がほっ! そりゃあ一体どういう意味でさあ?」
「竜族の頭では、分からなくても仕方ないか」
「おうよ!! さっぱり分からねえから、手短に説明してくれ!」
威勢よく胸を張るショコラビスケを前にして、ジャンバラヤ氏は、冷たい眼差しを向けながら、ゆっくり話す。
「つまりだなあ、金剛石棒の持ち主はお前でなく、あくまでパースリなのだから、使い方は、当然のことパースリが決めてよいという意味だ」
「おうおう、ジャンバラヤさんの仰る通りだぜ。この俺さまは、うっかり金剛石棒の持ち主になったつもりでいたでさあ。がほほ!」
決まりが悪そうに頭を掻くショコラビスケである。
そんな彼を尻目に、ラムシュレーズンがパースリに話す。
「金剛石棒の使い方は、ヴィニガ子爵さんがお決め下さいまし」
「承知しました。二十本のうち十本は、魔石を二系統にして貰うお代にします。残りは、皆さんが、なにか道具を得るために使って構いません」
パースリは、背袋の中から金剛石棒の束を取り出した。
ラムシュレーズンがホイップサブレーに問う。
「白銀の矢は、どれだけありますの?」
「六本あるよ」
「すべてを購入しますわ。金貨千八百枚ですわね」
「そうだねえ」
ホイップサブレーが、紫檀柄の銀矢を六本束ねて持ってきた。
「大切に使うのだよ?」
「はい、どうもありがとうございます!」
シロミが嬉々として銀矢を手中に収めた。
一方、ホイップサブレーは、鉄製の紐で編まれた「八手甲」と呼ばれる頑丈な手袋をショコラビスケに勧める。
「俺は、そんな代物に頼らなくても敵を殴れるぜ!」
「これを着用すれば、拳の威力が八倍よりも強くなるよ」
「がほっ! そいつは本当かよ!!」
「わたしは、商売で決して偽りを口にしないからねえ」
「お代はどれだけですかい?」
「ローラシア金貨で二千五百枚だよ」
「がっほーっ!! そんなにも沢山の金貨を支払えば、どれだけの本数、腸詰肉の燻製を食せるんだあ!!」
「ショコラ兄さん、あの珍しい料理は、一本につき銀貨一枚の価値があるとのことでしたから、金貨二千五百枚で五万本を購入できますよ」
「がほほほ。そいつを聞いただけで、腹が満ちてくる気分だぜ!!」
ショコラビスケが八手甲に興味を示すどころか、腸詰肉に思いを馳せてしまったので、ホイップサブレーは、話す相手を変える。
「ラムシュちゃん、たとい頑強な竜族といえども、活きのよい銀海竜と相見えるのなら、八手甲くらいは着用する方が安全だよ?」
「分かりましたわ。ショコラビスケさんが少しでも安全に戦えますよう、是非とも購入しておきましょう!」
「賢明な判断だねえ。おぽぽぽ」
「首領、そんなにも俺の身を案じてくれているのかよ!」
「もちろんですわ」
「がほ。五万本の腸詰肉に目が眩みそうだった俺は、まさしく愚か者だぜ……」
ショコラビスケは、涙を溢しながら八手甲を受け取った。
最後に金貨七百枚分の毒油を購入する。銀海竜と戦う際、キャトフィシュの魔獣骨剣およびジャンバラヤ氏の鎖鎌に塗る魔法具である。
魔石を二系統にして貰うために必要なお代を含めた金貨一万枚分を、パースリが二十本の金剛石棒で支払った。