《★~ 過去(四) ~》
メルフィル公爵家に降り掛かった厄災事について、グリルは淡々と簡明に話した。
彼の家族、三人は神妙な表情で耳を傾けていた。
すべてを語り終えたグリルは、まず娘のキャロリーヌに伝える。
「当代の皇帝陛下は、誠にお優しい人徳者であられる。これまで数多くの優秀な調理官を出してきた、このメルフィル家を深くご案じになり、調理官を目指しているキャロリーヌに対しては、皇国からの支援を、これまで通り続けさせると、お約束下されたのだよ」
「まあ、それはありがたいことですわ。あたくし、いっそう修行に励みます」
「そうだ。その意気こそが大切である」
続いてグリルは、息子に優しい眼差しを向ける。
「それからトースター」
「はい、お父さま」
「お前は今後もっと身体を丈夫にし、それから護衛官を目指すのがよかろうと、陛下から温かいお言葉を頂けた。さぞかし嬉しいことであろう?」
「もちろんですとも。そうですか、皇帝陛下から、そのようなお言葉を……」
トースターは目を潤ませている。
「うん。そればかりか、もう一つとてもありがたい話がある。実はなあ、優れた血統の白馬を賜わることになったのだよ。トースターの乗馬用としてだ。明日、早速ここへ護衛官の者が連れてくるそうだ」
「本当ですか!」
トースターは目を輝かせた。この当時、彼はまだ十歳だった。護衛官養成機関への入所までには、まだ六年間の時が残っている。
幼少から病弱だった彼も、少しずつ健康に近づいていたのだから、きっと養成機関への入所を果たすことになるに違いない。キャロリーヌと同様、皇国からの支援も約束されていた。
だからこそ、トースターの護衛官になる望みは決して夢では終わらないのだと、家族全員が信じていられたのである。
この二日後に、メルフィル公爵家の四人は、パンゲア帝国との境界付近にある寂れた地に向かって旅立った。
国一の駿馬を全速力で駆ったなら、およそ二つ刻の距離だけれど、最低限ではあっても、それなりに重量のある家財道具一式を積んだ馬車での移動は、途中に休憩を挟みながら、丸一日を要することになった。そして、辿り着いた辺境の地で、ひっそりと暮らし始めるのである。
引退するには早過ぎる年齢、四十の父、グリルの無念な気持ちを思いやり、十三歳のキャロリーヌは、未成熟な心を痛めるのだった。