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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART10 前人未踏の地下海域》銀海竜の棲む南方海域
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《☆~ もてなしの会食 ~》

 ローラシア皇国宮廷内の第一厨房では、一等調理官のピック‐コークスクルーと彼の指揮下にある三十人の調理官が、忙しく立ち働いている。

 本日、パンゲア帝国女王を招き、「もてなしの会食」が催される。その際に振る舞う料理の数々が、今まさに準備されているところ。

 前菜アペタイザを調理しているキルシュ‐フォンデュに近づいたピックが、険しい表情で怒鳴り声を浴びせる。


「こら、もたもたするな!」

「済みません……」

「遅れは微塵たりとも許されないぞ! 肝に銘じろ!!」

「了解しました!」


 叱責を受けたキルシュが気を引き締め、調理の手を加速させる。

 ピックは、毒がないかを調べる魔女族四人にも釘を刺す。


失敗フェイリャは断じて許されないぞ!」

「重重に承知しております」

「肝に銘じろ、肝だ!!」

「一等調理官さま、作業に支障をきたしますから、失敗が許されないと仰せであれば、どうかお静かに願います」

「承知した……」


 逆に釘を刺されてしまったピックは、苦々しい表情で頭を掻く。

 魔女族たちは、毒視どくみという認証魔法サーティフェイションを使って、料理の毒見をしている。これは全神経を集中させる必要があり、騒々しさこそ一番の妨げに違いない。

 調理官たちが全身全霊で職務を全うしたお陰で、予定の刻限を迎えるまでに、どうにか仕度を済ますことができた。


 もてなしの会食が催される「迎賓の間」には、主賓として招かれているラムシュレーズンの他に、パースリとシルキーが入らせて貰えている。

 選抜に漏れてしまったショコラビスケ、キャトフィシュ、シロミ、ジャンバラヤ氏は、准男爵バロネットのスクワシュ‐サワーと名乗った二等調理官にいざなわれ、調理官事務所にある「賄い食堂」にやってきた。

 四人を食卓の席に着かせた後、サワー准男爵は「少々お待ち下さい」と言葉を残した上で、厨房へ向かった。

 早速、ショコラビスケが苦言を呈する。


白頭鷲ボールドイーグルのシルキーが入室を許されたってえのに、どうして俺さまだけは迎賓の間に入らせて貰えねえ!」

「ショコラあにさん、僕とシロミさんも同じですよ。ジャンバラヤさんも入らせて貰えませんでした」

「キャトフィシュとシロミさんは、探索者イクスプローラ集団(‐パーティ)に加わって日が浅い。それに比べて、俺さまは首領キャプテンとのつき合いが長いんだ!」


 憤慨するショコラビスケを前にして、シロミが遠慮がちに口を開く。


「私は、高貴な面子フェイスがお集まりになる華やかな場所より、このように、親しみの滲む場所で食事をするのが好きです。ショコラビスケ殿はどうでしょうか?」

「俺さまは場所なんて一切気にしねえなあ。たとい極寒の地下迷宮ダンヂョンだろうと、美味いものを食せるのなら、大喜びで出向くぜ!」


 再びサワー准男爵が現れ、会話に割り込んでくる。


「そのような心意気を持たれる方にとって、ここは打ってつけですよ」

「おうスクワシュさん、そりゃあ一体どういう意味でさあ?」

「この《賄い食堂》でなら、まだ誰も口にしたことのないような、美味い料理を食すことができるのです」

「まだ誰も口にしちゃいねえだと?」

「はい」

「だったら、どうして美味いと分かるのですかい?」

「食してみれば、よく分かります」

「がほっ??」

「お四方よんかたのために、今から《もてなしの会食》を催しましょう。さあ、お望みの料理を言って下さい」

「だったら、まだ誰も食しちゃいねえ、最高級(トプクワリティ)の肉料理を頼むぜ!!」

「同じ品をお願い致します」

「私もそれを……」

「オレもだ!」

「了解しました。ふふふふ」


 サワー准男爵が妖しく微笑み、そそくさと厨房へ向かう。


「キャトフィシュよお、どんな肉料理が出てくると思う?」

「僕には、想像すらできません……」

「シロミさんはどうでさあ?」

「残念ながら、私にも分かりません」


 十分刻(ミニト)ばかり話しながら待っていると、サワー准男爵が、細長い代物を沢山、大皿に載せて運んできた。

 この奇妙な料理は両端が丸く、美しい棒状になっていて、表面が艶やかに輝き、白い湯気と芳ばしい香りを漂わせている。


「がほっ、こんなの見たことねえが、見るからに美味そうだぜ!!」

腸詰肉ソースィヂの燻製です。ガブリと齧って下さい」


 ショコラビスケが一本を摘み取り、サワー准男爵に言われた通り、口に入れて強く噛み切る。すると、爽快に「パキッ」と響いた。

 一本を食し終えたショコラビスケは、満面の笑みで「美味い!」と叫ぶ。

 見ていたキャトフィシュ、シロミ、ジャンバラヤ氏も食し、ショコラビスケが見せたのと同じような反応を示す。

 四人にとって、紛れもなく「もてなしの会食」だった。

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