《☆~ 銀海竜討伐の仕度(四) ~》
ローラシア皇国で一等政策官の地位にあるチャプスーイ‐スィルヴァストウンが若い女性を伴って、パンゲア帝国王室に出向いてきた。
二人の客人は、ラムシュレーズンとサトニラ氏が待つ第一迎賓室に通され、円卓に備わっている椅子に、横並びで腰掛ける。
総員が着席したところ、早速、サトニラ氏が口を開く。
「ようこそお越し下さいました。そちらのお方は新面子ですね?」
「はい。この者は、三等政策官のケール‐ベジターブルにございます。本日は、一つ大切な動機があるとのことで、同行を熱望するものですから、やむを得ず連れて参りました」
スィルヴァストウン氏は、少なからず辟易した表情で弁明した。
一方、紹介して貰ったケールが唐突に立ち上がり、深々と頭を下げる。これは、かつて皇国宮廷内で四等管理官の職に就いていたラムシュレーズンに冷たく当たった悪行に対する謝罪に他ならない。
「五ヶ月ばかり前にホッティさんから一部始終を聞きまして、わたしは、あなたさまに大きな誤解を持っていたと思い知り、顔面から火が噴き出るほど、恥ずかしい行いをしたものだと反省致しましてございます」
「ケールさん、そのお話は、もう水に流していましてよ?」
「ホッティさんは、あなたさまからご温情を賜わり、たいそう救われたと話していました。わたしもお詫びしなければと思い悩み、こうしてスィルヴァストウン一等管理官さまに同行してきました次第です。つきましては、この細やかな品目を進呈させて頂きます」
ケールが懐の中から、妖しい輝きを放つ小石を取り出した。
ラムシュレーズンは一瞥して、驚きの表情を見せる。
「あら、まさかそれは!?」
「雷金光系統の魔石にございます。一系統に過ぎませんけれど、なにかのお役に立てて下さればと思い、持参致しました」
「いけませんわ。たとい一系統であっても希少な代物でしょうに、お差し出しなさるなんて、あたくし困ってしまいますもの」
「まあそうご遠慮なさらずに、どうかお納めになって下さいませ」
「でも……」
すっかり困惑してしまったラムシュレーズンを目の当たりにして、スィルヴァストウン氏が言葉を挟む。
「私の方からもお願い申し上げます。ベジターブル三等政策官の過ちは、政策官たち皆の過ちであるばかりか、皇国宮廷の落ち度にもなります」
「そこまで仰せになられるのでしたら、せっかくご持参なさった雷金光系統の魔石ですし、ありがたく頂戴致しましょう」
ラムシュレーズンは、ケールから小石を受け取る。
会談は首尾よく運んだ。両国の関係を今後どう改善してゆくのかについて、有意義な話し合いができたと言えよう。
ラムシュレーズンは傍観者に徹していた。政策官たちの議論が終わるのを待ち、銀海竜の逆鱗が必要となった経緯を打ち明けた上で、南方海域へ赴くためにローラシア皇国の領土を通りたい旨を伝えた。
スィルヴァストウン氏は、即座に「ラムシュレーズン女王の旅が安全であるよう祈念しましょう」と快諾の言葉を返した。これに加えて「皇国宮廷にお立ち寄り、宿泊なさってはどうでしょうか?」と提案する。
ラムシュレーズンは、喜んで好意を受けることにした。
・ ・ ・
第十二の月の二十日目、ラムシュレーズンたちの探索者集団とパースリおよびジャンバラヤ氏が、いよいよ出立の刻限を迎えた。
王室の御用達馬車に乗って走り出し、ショコラビスケが陽気に話す。
「スィルヴァストウンさんが皇国宮廷を代表してお墨つきを与えてくれたから、俺らは、なんら気にせず旅ができるってえ訳でさあ!」
「ショコラ兄さん、僕も少し発言してよろしいでしょうか?」
「おうキャトフィシュよお、遠慮なく発言してみろ!」
「お墨つきがなかったとしても、ショコラ兄さんなら、いつも気にすることなく旅をなさいますよね?」
「がほっ!! キャトフィシュに一本取られちまったぜ!」
兎も角、銀海竜討伐の仕度が抜かりなく整っているので、ラムシュレーズンたち一行は、意気揚々とローラシア皇国の中央を目指す。