《★~ 女王の人助け(一) ~》
ジャンバラヤ氏が鎖鎌を握り締め、険しい表情で追い掛けてきた。
「おいこら小娘、出しゃばった真似をしやがって!」
「あら、なんのことですの?」
「惚けると、女でも容赦しないぞ!!」
ラムシュレーズンに向かって、ジャンバラヤ氏が鎖鎌をふりかざした。
二人の間にショコラビスケが割って入る。
「ひょっとすると、俺たちを忘れちまったのですかい?」
「たかが竜族の分際で、戯けたことを抜かすな! お前たちとは、今日この場所で初めて出会ったのだから、忘れちまったもなにも、ありはしない!」
「おうおう、前よりも深刻な症状になったみたいだぜ」
ショコラビスケが気の毒そうな表情を見せたので、ジャンバラヤ氏は、眉をひそめながら尋ねる。
「竜族の若造、それは一体どういう意味だ?」
「今のジャンバラヤさんは、聞かない方が幸いかもしれねえ。それでも聞きたいのなら、包み隠さず教えてやろう」
「ふん、もったいぶらずにさっさと話せ!!」
「よおし分かった。なにもかも忘れちまっているようだが、ジャンバラヤさんは、以前から俺たちと知り合い同士だってえ訳だ。アイスミント山岳のトロコンブ遺跡へ赴いた際、最上階にいた機械人形が杖から放った赤熱光を浴びちまい、運の悪いことに、記憶を失ったのでさあ」
「それは真実か!!」
「もちろんだぜ。俺たち竜族は、偽りを話すのが苦手だからなあ」
「よくぞ教えてくれた! このオレさまも、そういう過酷な体験をしているのではないかと感じていた。どうすれば記憶を取り戻せるだろうか?」
「さすがの俺でも、そればかりは分からねえ」
ここへキャトフィシュが口を挟んでくる。
「ショコラ兄さん、僕の考えるところを述べてもよろしいでしょうか?」
「おうおう、一向に構わねえぜ!」
「では僭越ながら、そうさせて頂きます。記憶を失っておられるジャンバラヤさんは、医療学者に診察して貰うのがよろしいかと思うのです」
「なるほどなあ。この俺もキャトフィシュの考えるところに賛同だぜ!」
「そうと決まりましたら、エルフルト共和国へお連れして、マカレルさんに相談しましょう」
ラムシュレーズンの言葉に、ジャンバラヤ氏は疑問を抱く。
「ちょっと待て小娘! そのマカレルさんというのは誰だ?」
「エルフルト共和国で医療大臣の地位にあるお方ですの。優秀な医療学者ですから、ジャンバラヤさんにとって、なにかよい方策を考えて下さいますわ」
「どうして医療大臣が、お前のような小娘の相談に乗るのだ!」
「それは……」
言い淀むラムシュレーズンに代わり、シロミが口を開く。
「黙ってお聞きしていましたけれど、こちらのお方を小娘だなんてお呼びするのは不敬の極みにございます」
「なんだと、お前も同じ小娘ではないか!」
「はい。仰せになった通り、私は小娘に過ぎません。しかしながら、首領ラムシュレーズン女史におかれましては、決してそうではなく、第百二十六代のパンゲア帝国王にあらせられます」
「帝国王だと??」
「そうです。ラムシュレーズン女史は、先月の二十五日目、晴れて帝国女王に即位なさいましたから」
「まさか!? おい竜族、この小娘が抜かした話も真実なのか?」
「おうよ!」
「なんと……」
先ほどまで威勢のよかったジャンバラヤ氏の顔面が、まるで枯れゆく花のように生気をなくし、俄かに蒼白となる。
そんな彼の様子を目の当たりにしたラムシュレーズンは、シロミに釘を刺す。
「たといパンゲア帝国王でなくとも、あたくしは人助けのつもりで、ジャンバラヤさんをエルフルト共和国へお連れしようと考えております。ですから、威張ったような発言をしてはなりません」
「承知しましてございます。ジャンバラヤさんの失礼な言葉が、あまりに聞き捨てならなかったものですから、つい威張ってしまいました」
「分かって下されば構いませんのよ」
「ありがとうございます。女王陛下は本当にお優しいです」
深々と頭を下げるシロミである。
ジャンバラヤ氏は、お辞儀をした上で丁重に話す。
「ラムシュレーズン女王陛下、不敬の極みでしかないオレだが、どうかマカレルさんとかいう医療大臣の元へお連れ下さい!」
「ええ、そうしますわ」
こうしてジャンバラヤ氏は、ラムシュレーズンたちとともに、エルフルト共和国へ向かうこととなった。




