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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART9 新しいパンゲア帝国王室》ラムシュレーズンの政策
389/438

《★~ アタゴー山麓西門食堂 ~》

 人族の若い男性が注文を伺うために現れた。

 見知らない者なので、ラムシュレーズンが問う。


店主マスタのフラウンダ‐ソールティさんは、どうなさいまして?」

「七日くらい前から腰痛に苛まれてしまい、どうにも仕事に手がつかないため、今は養生しております」

「まあ、大変ですこと。そうしますと、あなたさまが、新しく店主の地位ポジションに就かれましたのね?」

「いいえ、違います。なにしろボクは親爺ファーザ代理人エイヂェントに過ぎませんから」

「あら、そうですのね。あたくしは、ムーン系統魔女族のラムシュレーズンです」

「申し遅れました。ボクの名前はサーディーン‐ソールティです」


 二人の会話に、ショコラビスケが割り込んでくる。


「俺さまは熟練者エクスパートと呼ぶに値する探索者、ショコラビスケだ!」

「僕は新進気鋭の(アパンカミング‐)探索者イクスプローラ、キャトフィシュ‐ストロガノフです」

「同じく新進気鋭の探索者、シロミ‐デッシュにございます」

「分かりました。兎も角、ご注文をお決めになって下さい」


 サーディーンは、雑談を終えて真面目に職務を続けようとした。

 突如、離れた場所で大声が放たれる。


「おいこらサーディーン、この料理は不味いぞ! 期待外れにもほどがあるというものだ!」


 彼の声と口調に聞き覚えがあり、ラムシュレーズンとショコラビスケは、咄嗟に奥の食卓へ視線を向ける。二人の予期した通り、知人の姿が見つかった。

 サーディーンは「済みません!」と答え、顔面を蒼白パラにして駆けつける。

 その様子を眺めながら、ショコラビスケが呆れたような面持ちで話す。


「注文伺いの途中で立ち去りやがった」

「緊急を要する事態トラブルのようですし、無理もありませんわ」

「そりゃあそうでしょうが、まさかこんなところで、()()()()()()さんに遭遇するとはなあ……」


 横からキャトフィシュが問い掛けてくる。


「怒鳴ったお客は、首領キャプテンとショコラあにさんのお知り合いでしょうか?」

「おうよ。あそこの食卓で鎮座していやがる男は、鎖鎌の使い手として名を馳せたアンドゥイユ‐ジャンバラヤだ。俺たちが金竜討伐に挑んだ際、ともに戦った仲間の一人ってえ訳さ」

「なかなかにお強そうですねえ」

「この俺さまほどじゃあねえが、マトンさんに勝るとも劣らねえ実力を持ち合わせていやがる。それよりもキャトフィシュよお、ガイの名前だけは、くれぐれも間違えるなよ。怒りっぽい気質だからなあ」

「あたくしも間違えて、酷く叱られたことがありますわよ」


 ラムシュレーズンたちは、他愛のない会話を続けていた。

 その一方、サーディーンが全身全霊でジャンバラヤ氏に謝罪アパロジの言葉を伝えているところ、老男性が杖を使って、ひょっこり姿を現す。


「これは一体どういうことだ!!」

「ああっ、親爺!? そんなに無理をすると、悪い腰に障ってしまうよ。さあ早く邸に戻って、しっかり養生してくれ」

「つべこべ抜かすな! 腰の具合よりも、この食堂こそが一番の懸念だ。しばらく休むと決めたはずなのに、どうしてお前が勝手にやっているのだ!」


 この老男性は他でもなく、店主のフラウンダである。腰がよくなるまでの間、やむを得ず休業にしたのに、未熟な息子が独断で代理人になって食堂を営んでいると聞き及び、重い腰を上げてきたという。

 サーディーンは、泣きながら弁明を試みる。


「先祖代々続く、このアタゴー山麓西門食堂が危機に瀕していると思うと、じっとしていられなかったのだよ!」

「お前の気持ちも、わしの腰と同じくらい痛いほど分かる。しかし、不味い料理をお客さまに提供したとあっては、本末転倒と言わざるを得ない」


 二人が問答をしているところ、ラムシュレーズンが近寄って口を挟む。


「深刻な事情のあるのは重重じゅうじゅうに承知の上で、一つ進言させて頂きましょう」

「お嬢さん、どのような進言ですかな?」

「フラウンダさんは、息子さんとアマギー山麓温泉へ赴いて下さいまし。そこのお湯は、腰痛や神経痛に効きますから、三日ばかり毎日浸かれば、きっと快癒するに違いありません」

「アマギー山麓温泉なんてのは、聞いたことすらないが……」

「パンゲア帝国にあります。エルフルト共和国との境界に近いところですわ」

「承知しました。親切にお教え下さり、心より感謝します」

「このボクからもお礼を述べます」


 サーディーンが涙を流しながら、深々と頭を下げた。


「まずは親爺の腰を治すのが先決だと、ようやく分かったのです。本当にありがとうございました!」

「いえ、どう致しまして」


 昼餉は済ませられなかったけれど、ラムシュレーズンは少なからず清々しい気持ちで、アタゴー山麓西門食堂を後にする。

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