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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART9 新しいパンゲア帝国王室》ラムシュレーズンの政策
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《☆~ パンゲア銀毛牛の規制 ~》

 会談が終わり、三人はオクラ氏の邸宅を後にした。

 道に出るや否や、ショコラビスケが意気揚々と口を開く。


首領キャプテン、こうして地下街にやってきた訳だからよお、牛肉食堂ビーフレストラントに立ち寄って、減った腹を満たすってえのはどうですかい?」

「あたくしは、その提案に賛同しますわ」

「おうおう、そうと決まれば、さあ行きましょうぜ!」


 ショコラビスケが嬉々とした表情で歩きながら、牛肉食堂は地下街で一番に美味しい食事処だということを、サトニラ氏に伝えた。

 するとサトニラ氏は、ふと思った疑問を口にする。


「パンゲア帝国内で一番に豪華な宿屋として名高いパニーニ大旅館の食堂と比べますと、どちらの出す料理が美味なのでしょうね」

「俺さまの見立てだと、今から赴く牛肉食堂の厚切り(ステイク‐)牛肉ビーフは、パニーニ大旅館で食せる料理に勝るとも劣らねえでさあ。がっほほ!」

「その通りならば、実に素晴らしい状況だと言わざるを得ません」


 ショコラビスケに代わって、ラムシュレーズンが説明を加える。


「牛肉食堂さんも、食材の牛肉はパンゲア銀毛牛ぎんげうしですのよ」

「女王陛下、それは本当でしょうか!?」

「もちろんですとも」

「大いに驚きました。パニーニ大旅館の食堂に勝るとも劣らないという、ショコラビスケさんの見立ては、正鵠を射ているに違いありません」


 サトニラ氏は得心に至った。

 一方、ラムシュレーズンは、以前この道を通った際、「小料理屋マトン」という名の食事処があり、別の場所に移転したことを思い出す。


「小料理屋を営まれているマトン‐ザクースカさんが看板サインボードを運んでおられたところ、ショコラビスケさんがお助けしましたわね。覚えておいでかしら?」

「そんな経験もあったかもしれねえでさあ。なにしろ俺さまは、美味い牛肉の味は覚えているが、他の些事トライフルはほとんど、一晩ぐっすり寝ると、綺麗さっぱり忘れてしまうのでさあ」

「マトン‐ザクースカさんのこともお忘れですの?」

「おうおう、マトンさんと同じ名前の爺さんなら、たった今、思い出したぜ! 俺の記憶も、そんなに悪くなかったなあ。がほほほ!」


 得意気に笑うショコラビスケを尻目に、ラムシュレーズンは、胸の内で「ザクースカさんの妹さんでいらっしゃるマカレルさんに、この地下街が、最早《入ってしまうと決して地上へは戻れない牢獄》ではないのだと、早急にお伝えして差し上げましょう」とつぶやくのだった。

 やがて目的の「牛肉食堂」に辿り着き、三人は厚切り牛肉を注文する。

 一切れを食し終えたサトニラ氏が、しみじみと語る。


「改めて、パンゲア銀毛牛の美味しさを実感できました。この食材が、もっと多くの食事処で出せるようになれば、大勢の民が喜ぶに違いありません」

「でもパンゲア銀毛牛は、とても希少なのでしょう?」

「仰せの通りにございます。規制があり、多くを育てないためです」

「あらまあ、そうですのね」


 ここへショコラビスケが口を挟んでくる。


「だったら、その()()てえのを即刻、取りやめちまえばいいでさあ?」

「そうしたいのは山山(やま・やま)なのですけれど、こればかりは政策官が決める訳にいかない事情があり、簡単には撤廃できません」


 サトニラ氏は、パンゲア帝国が特別な品目アイテムに規制を施している現状について、詳しく説明した。食材に関しては、どこに卸すかを食材官の立場にある者が決めているという。


「パンゲア銀毛牛は、パニーニ大旅館の食堂と、あと二つの食事処にしか卸されていません。それが、まさか地下街にも卸していようとは、このバトルド‐サトニラですら、本日に至るまで、まったく気づきませんでした。地上へ戻り次第、食材官長に問い掛けてみようと思います。パンゲア銀毛牛の規制を撤廃して貰えないか、じっくりと話をするつもりです」

「是非とも、そうなさって下さいまし」

「サトニラさんよお、しっかり頼みますぜ!」

「はい、承知しました」


 サトニラ氏が頭を一つ縦に振る。

 ラムシュレーズンとショコラビスケは、パンゲア銀毛牛の規制が撤廃される日のくることを願いながら、引き続き、厚切り牛肉に舌鼓を打つ。

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