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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART9 新しいパンゲア帝国王室》揺るぐパンゲア帝国の権威
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《★~ 帝国王室の意図(三) ~》

 サトニラ氏が威勢よく席を立ち、嬉々とした表情で話す。


「それでは釣り用(フィシング‐)竿ロドなど、人数分を急ぎ用意しますので、皆さまは、しばらくの間ここで待機していて下さい」

「政策官長さま、ご用意なさる道具アイテムにつきましては、二人分を減らして下さって構いません。私とザクースカ二等医療官が、このパンゲア帝国に赴いた目的は、少なくとも、魚釣りなどではありませんから」


 アズキが鋭い眼差しと口調で、キッパリと言い放った。

 対するサトニラ氏は、なんら気にする様子を見せることなく平然と答える。


「分かりました。またの機会チャンスを待ち望むとしましょう」


 サトニラ氏は一礼し、政策官室に隣接している道具の保管庫へ向かう。

 その一方で、アズキとヘリングが、キャロリーヌたちに別れの言葉を告げ、さっさと帰国の途に就くのだった。

 二人を見送った後、ショコラビスケが思わずつぶやく。


「魚釣りが嫌いなのかよ?」

「ショコラあにさん、僕が察するに、彼女たちは医療メディカル学者(‐スコラ)としての務めを立派に果たそうと意気込んでおられたにも拘わらず、《医療の知識を交換し合いましょう》という単純な方策が示されるだけで会見が終わってしまい、すっかり拍子抜けしたのでしょう。それで、魚釣りをする気分ではなかったのだと考えられます」

「なあキャトフィシュよお、お前は親爺ファーザのマトンさんに勝るとも劣らねえくらい、なかなかに頭脳明晰な男だぜ!」

「お褒めにあずかり光栄です」


 他愛のない会話を続けているうちに出立の仕度が整い、キャロリーヌたちは、サトニラ氏と彼の部下三人とともに帝国王室の御用達馬車に乗り込む。

 十分刻(ミニト)ばかり静かに揺られ、黄土オークル色湖畔(‐レイクサイド)に通じる樹林に到着した。ここから少しの道を歩く必要がある。

 落ち葉を踏んで進みながら、キャロリーヌが口を開く。


「この前きた折には、甘い香りのする果実が沢山ついていましたのに、今は一つとして残っていませんのねえ……」

黄林檎(イェロウ‐アプル)は、つい先日、収穫が終わりましたよ」

「そうですか」


 サトニラ氏の言葉を聞いて、キャロリーヌは残念に思う。

 やがて一行が湖に辿り着いた。岸に近いところが淡い水色で、遠くへ向かうにつれて濃い妖魔コバルト群青ブルーに変化する湖面が広がっている。

 壮観な眺めを前にして、シロミが思わず感嘆の言葉を放つ。


「まるで心の洗われるような風景です!」

「シロミさんよお、くれぐれも気をつけねえとなあ。落っこちると、心が洗われるどころか、身体の健康を損なうぜ」

「え、本当ですか!?」


 顔色を変えるシロミに、サトニラ氏が事情を伝える。


「美しい眺めとは裏腹に、湖底の泥は極めて不浄なのです。毒を多く含んでおり、水を飲んでしまうと、それはもう酷いお腹痛(スタマクエイク)に見舞われますから」

「承知しました。細心の注意を払います」


 サトニラ氏の部下が、皆のために投げ釣り(キャスティング)の準備を整えてくれた。


「本日もまた、前回と同様の趣向としましょう。一番に多くをお釣りになったお方には、私の所有しております、最上級スパーラティヴの竿を一本、ご進呈させて頂きますよ」

「がほほ。今日こそは、この俺さまが一番多くを釣ってみせるぜ!」

「出過ぎた態度だと承知ながら、あえて挑戦させて頂きます」

「なあキャトフィシュ、生意気くらいなガイの方が、むしろ俺は好きだ」

「ありがとうございます!」


 この二人とシロミが横並びになって釣りを始めた。竿を握れないシルキーは、ショコラビスケの肩の上で傍観者バイスタンダに徹する。

 お馬の縦幅で四頭分ほど離れたサトニラ氏に、キャロリーヌが近寄る。


「昼餉のために、先ほど街中の食事処ビストロに立ち寄りました。その場でドリンク民国のお二人と遭遇しましたけれど、聞くところによりますと、サトニラさんは、彼女たちにも《今後、医療の知識を交換し合いましょう》という一つしか、お話しなさいませんでしたのね」

「はい、その通りです」

「もしよろしければ、帝国王室の意図を教えて頂けませんでしょうか?」


 キャロリーヌが頭を下げた。


「私の意図なら、ここで打ち明けることが可能です」

「是非ともお願い致します」

「美観を眺めながら政治的な話をするのも妙味チャームと言えましょう。王室内では、どのような聞き耳が立っているか、まったく分かりませんからね」


 サトニラ氏は、他の者へ届かないように声を落とす。

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