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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART9 新しいパンゲア帝国王室》揺るぐパンゲア帝国の権威
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《★~ 帝国王室の意図(一) ~》

 パンゲア帝国王室の政策官室に、ドリンク民国から赴いてきたばかりのジャムサブレーとチャツネが通された。

 政策官のヘドを務めるバトルド‐サトニラが、入室した二人に笑顔を向けて、挨拶の言葉を掛ける。


「ようこそお越し下さいました。さあ、腰を落ち着けて下さい」

「はい」


 チャツネは、円卓に備わっている椅子の一つに座る。

 警戒心の強いジャムサブレーが立ったままでいるけれど、サトニラ氏は、なんら気にする様子を見せることなく、卓上の丸壺ポットに手を伸ばす。


「小麦の焙煎茶はいかがでしょう?」

「頂きたく存じます」


 チャツネが、少なからず緊張した面持ちで答えた。

 用意されていた三客の茶碗カップに、温かい小麦茶が注がれる。

 麦の芳ばしい香りが漂う中、早速、サトニラ氏が話を切り出す。


「医療の発展は、国家をより豊かにする上で重要な政策の一つであると、私は常々考えております」

「ご尤もな道理に相違ないです」


 チャツネが即答し、ジャムサブレーは今なお、沈黙を続けている。


「それでは今後、医療の知識を交換し合いましょう」

「はい。素晴らしい方針と思います」

「賛同を頂けてなによりです。差し当たっては、これくらいを今日の成果としておきましょう。よろしかったら、昼餉を準備しますけれど、どうなさいますか?」

「え??」


 唐突に会見が終わったので、チャツネは戸惑いを隠せない。

 彼女に代わり、ジャムサブレーが口を開く。


「せっかくのご厚意ながら、私たちの昼餉は必要ありません。用件の済み次第、帰国の途に就くつもりですから」

「そうしましたら、またの機会チャンスを待ち望むとしましょう」


 サトニラ氏が笑みを浮かべながら、別れの言葉を述べる。

 パンゲア帝国王室を後にしたジャムサブレーとチャツネは、お馬を駆り、「小料理屋ピーツァ」という名の食事処ビストロにやってきた。

 ジャムサブレーが問う。


「ここで昼餉にしようか?」

「賛成だわ」


 二人は、近くの宿屋にお馬を預けてから食事処に入る。

 チャツネが見覚えのある女性に気づき、ジャムサブレーに伝える。


「あちらの食卓にいらっしゃるお客は、アタゴー山麓西門で、あなたに話し掛けてきたお方じゃないかしら?」

「確かにその通りだわ。彼女たちも、パンゲア帝国の王室を訪問すると話していたから、その前に腹拵えをしているのでしょうね」


 どの食卓でも誰かが陣取っているため、どこかで同席せざるを得ない。

 ジャムサブレーとチャツネは、キャロリーヌたち一行およびアズキとヘリングがいる食卓に近づく。

 キャロリーヌが二人に気づき、声を掛けてくる。


「またお会いしましたね。どうぞ遠慮なく、お座りになって下さい」

「是非とも、そうさせて頂くわ」


 ここへ、店主マスタのピーツァがやってきた。


「がおっす、注文どうなするが?」

「こちらのお勧めは、どのようなお料理かしら」

厚切り(ステイク‐)牛肉ビーフがおっす!」

「では、それと海藻ケルプ入りのスープを二人分ずつ頼みましょう」

「がおっす!」


 ピーツァは、意気揚々と厨房へ向かった。

 そんな獣族の後ろ姿を眺めながら、キャロリーヌが説明する。


「彼は、かつてパンゲア地下牢獄でお暮らしになっていましたの。あたくしたちと地上への生還を果たすことができて、こうして食事処を営んでおられますわ」

「そう」


 ジャムサブレーにとっては、興味の湧かない話題だった。

 横からチャツネが声を上げる。


「先ほどは名乗れませんでした。わたしは、ドリンク民国の生活省で副長官を務めています、チャツネ‐ケバブです」

「あたくしはキャロリーヌ‐メルフィルですわ。未熟ながら、探索者イクスプローラ集団(‐パーティ)の首領をしております」


 この二人に続き、他の者たちも手短に名乗り合った。

 それから、ジャムサブレーが神妙そうな表情と口調で話す。


「医療官のお二人にとっては、お気の毒ながら、今回の訪問は無駄足に終わるかもしれませんよ」

「それは一体どういう意味でしょう?」


 単刀直入に尋ねたアズキに、ジャムサブレーが打ち明ける。


「私たちは、先ほど帝国王室で会見を済ませたところです。話題に持ち上がったのは、《今後、医療の知識を交換し合いましょう》という一つでした。私は腑に落ちません。そのような提言だけが目的で、ドリンク民国とローラシア皇国に、優秀な医療(メディカル)学者(‐スコラ)の派遣を望んだパンゲア帝国王室の意図が分からないのです」

「そうでしたか。ご助言、ありがとうございます」


 アズキは、平然とした面持ちを崩さない。

 丁度ここへ、ジャムサブレーたちの注文した品が運ばれてきたので、一同は、しばらくの間、温かい料理に舌鼓を打つ。

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