表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART9 新しいパンゲア帝国王室》揺るぐパンゲア帝国の権威
369/438

《☆~ デッシュ家の弓 ~》

 目的を無事に果たしたキャロリーヌたちは、日の光(グレアリング)の星(‐スター)が見え始める頃、獣族たちに別れを告げ、山賊バンディト集団(‐パーティ)の拠点を後にする。

 山道を下り、アタゴー山麓西門食堂に辿り着いたところ、どういう訳か、マトンとパースリの姿があった。

 ショコラビスケが真っ先に声を掛ける。


「お二人さんよお、ひょっとすると、昨日からずっと、この食堂に留まっていたのですかい?」

「それは違う。少しばかり調べたい事案があったから、僕たちは皇国中央へ出掛けていてね、ここには、ついさっき着いたばかりだよ」


 マトンは手短に答えた上で、次はシロミに向かって話す。


「弓を取り戻せたのだね?」

「はい。お陰さまでこの通りです!」


 シロミが、手に持っている弓を、さも満足そうに掲げた。

 一方のマトンは、ショコラビスケの巨体に視線を移す。


「泥塗れになっているけれど、落とし穴に嵌まったのかな?」

「おうおう、その通りでさあ! だけどよお、この俺さまだったからこそ、ほんの掠り傷で済みましたぜ。がっほほほ!」

「そうか、難儀だったね。まあ兎も角、誰も大きな怪我をせずに帰れたのは、まさしく幸いだった。キャロルが、首領キャプテンとしての役割を全うした証だね?」

「いえ、皆さまが勇ましくご活躍して下さったからですわ」


 キャロリーヌは謙遜の態度を示しながら、ピロリンサンテツの振る舞いが、なかなかに紳士的ヂェントルだったことについて詳しく話した。


「それはそうと、マトンさんとヴィニガ子爵さんは、どのようなご用向きで、皇国中央へお出掛けになられましたの?」

「ヴィニガ子爵が、デッシュ家の弓について調べたいと思われたからだよ」

「まあ、そうですのね」

「シロミ嬢、二十一年前にも、デッシュ家は弓を喪失したそうだね?」

「はい。母が生前、その件について、私に教えてくれました。当時、デッシュ家は没落へと向かっていて、日々の食事すら、満足にできなかったため、背に腹は代えられず、使用人の数を減らしました。それがため、留守中の警戒が不十分となり、代々伝わってきた弓が盗まれて、行方知れずに……」


 弓を大切そうに眺めるシロミを前にして、マトンが問う。


「その後、誰の手に渡ったと思うだろうか?」

「マトンさんよお、俺さまは知っているぜ!」

「おや、なにを知っているのだい?」

「なにもかも全部でさあ! 他の誰でもなく、首領キャロリーヌ女史の親爺さんの手に渡るってえ真相だぜ! がほほほ!」

「どうして知っているのだい?」


 これには、ショコラビスケに代わって、キャロリーヌが説明する。

 グリルが山賊のヘドに譲渡し、その後、ピロリンサンテツの手に渡った。そしてパンゲア衛兵団に奪われるけれど、少し経ってピロリンサンテツが取り戻したということ。

 マトンは得心して、再びシロミに話す。


「パンゲア衛兵団に奪われた弓は、一度は手元に戻ったね?」

「そうです。メン自治区の道具屋に置かれているところを見つけ、所持していた金貨のすべてを使い、どうにか買い取りました。でもすぐ、カカオマスに騙されてしまい……」

「うん。狡猾な男爵バロンがシロミ嬢から奪った弓は、ピロリンサンテツの手に渡る。そして、今日ようやくシロミ嬢が取り戻した。本当によかったと思うよ」

「はい、ありがとうございます!」


 シロミは笑みを浮かべた。

 ここにショコラビスケが口を挟んでくる。


「奇妙な巡り合わせをした弓だが、その道中がすべてハッキリしたぜ!」

「いいえ違いますわよ」

「首領、なにが違うのですかい?」

「まだ一つだけ、道中がハッキリしていませんもの」

「がほっ! そいつは一体、どこですかい??」

「僕が説明するとしよう。つまりねえ、デッシュ家から盗み出されてから、グリル殿の手元に届くまでの道中だよ」

「がっほーっ! すっかり見落としていたぜ!」


 驚愕を隠せないショコラビスケを尻目に、マトンが平然と話す。


「皇国中央で、引退されているシャルバート‐スプーンフィードさん、および一等調理官の地位ポジションにあるピック‐コークスクルーさんと面会し、その辺りの事情を聞いてきたのだよ」


 二十一年前、スプーンフィード伯爵家の所有している私領に、断りもなく小妖魔が侵入していたのを、シャルバートの配下の者が捕らえ、小妖魔が携帯している弓を没収した。それを、知り合いだったグリルに譲り渡したとのこと。

 それから一年ばかり後、アタゴー山でグリルたちが遭遇した事件の際、当時まだ三等調理官だったピックが同行しており、顛末を話して貰えた。

 マトンの説明が終わるや否や、ショコラビスケが感慨深げに口を開く。


「ずいぶん長い道のりを経たものだぜ。シロミさんよお、苦労を重ねて取り戻せたそいつは、二度と喪失できねえなあ?」

「もちろんですとも!」


 シロミは、手中の弓をしっかり握り締めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ