《☆~ 山賊討伐(四) ~》
近くに清らかな泉があり、鉱物性の水が絶えることなく湧き出していたので、喉を潤して休めた。
キャロリーヌが真っ先に腰を上げる。
「先を急いだ方がよさそうですから、そろそろ出立しましょう」
「首領、こいつはどうしますかい?」
ショコラビスケの問い掛けに対し、キャトフィシュが懸念を述べる。
「連れてゆくと足手纏いになるでしょう」
「そうですわね……」
キャロリーヌは、少しばかり考え込んだ。
捕らわれの身となっている獣族が、地面に座った姿勢のまま口を開く。
「わっせと取引せんべ」
「取引ですって??」
怪訝そうな表情で問うキャロリーヌに向かって、獣族が言葉を続ける。
「縄を解いて、わっせを自由にしてくれりゃ、この弓も矢も皆そっくり、あんたらにやるべ」
「分かりましたわ。でも、そのために、本当のお名前をお教え下さい。あたくしは知らないお方と取引するつもりなぞ、毛頭ありませんから」
「アンチョビーだべ。小物袋に通行証があるんで、調べりゃええべ?」
「僕にお任せ下さい」
キャトフィシュが、獣族の衣服の小物袋から羊皮紙を出して開き、キャロリーヌの前に掲げた。
「ドリンク民国で認定をお受けになったのですね。確かに、お名前はアンチョビーと記載されています」
「これで取引が成立だべ?」
「はい。約束の通り、この品々を頂きますわ」
キャロリーヌが、地面に置いてある弓と数本の矢を手に取った。
続いて、キャトフィシュが獣族の身体を縛っている縄を解き、手に持っていた羊皮紙を差し出した。
彼が、それを衣服の小物袋に収めてから立ち上がる。
「次に相見えたら、絶対やられんべ!」
いわゆる「負け惜しみ」の言葉を吐いた上で、獣族は茂みに向かって駆け出した。
彼の姿が見えなくなるのを待ち、キャロリーヌがシルキーに指示を出す。
「アンチョビーさんの追跡を頼みます」
「きゅい!」
シルキーは力強く答え、翼を大きく広げて上空へ飛び立った。
その一方で、キャロリーヌがシロミに弓と矢を手渡す。
「差し当たって、これらをお使いになるとよろしいですわ」
「分かりました」
「あなたの弓は、きっと取り戻しましょう」
「はい!」
「ところで首領、俺たちはどっちに進みますかい?」
「ヴィニガ子爵さんが描いて下さった図の通りですわ」
「おう、了解だぜ!」
先ほどよりも警戒を強め、再び歩き始めるけれど、二分刻も経たないうちに、長槍を握った獣族が次々と姿を現した。
たちまちにして、七人からなる山賊集団に囲まれてしまい、キャトフィシュが苦言を呈する。
「やれやれ、《一難去ってまた一難》という表現は、今まさに僕たちが迎えている状況にぴったりだよ」
ショコラビスケが、両手の拳に力を込めて注意を促す。
「おうおうキャトフィシュよお、今度ばかりは油断しちゃならねえぜ!」
「はい、重重に承知しています!」
キャトフィシュは意を決し、魔獣骨剣をふりかざしながら、彼から近い地点にいる獣族を目掛けて突進する。そんな俊敏さを目の当たりにしたキャロリーヌは、胸の内で「老化なさる以前のマトンさんに勝るとも劣りませんわね」と感服した。
ショコラビスケは、別の敵に激突して弾き飛ばした。
そしてシロミは、アンチョビーから譲り受けた弓と矢を使って、キャトフィシュとショコラビスケを援護している。三人の連携した動作がうまく功を奏し、やがて七人の山賊たちが敗走するに至る。
ショコラビスケが戦いを続けようとするけれど、キャロリーヌが制止する。
「深追いせずとも構いませんわ」
「ですが首領、連中を一網打尽にする絶好の機会を逃しますぜ?」
「ショコラビスケさん、お忘れかしら? あたくしたちの目的は、雑魚のお相手ではありませんのよ。ピロリンサンテツさんから、シロミさんの大切な弓を取り戻すことです」
「がっほ! 首領キャロリーヌ女史の仰る通りでさあ!!」
山賊集団の逃げた先は、アンチョビーが向かったのと同じ方角だったので、彼らから大統領と呼ばれているピロリンサンテツが、そちらに潜んでいるかもしれないと推察した。それでキャロリーヌは、シルキーが偵察から戻るまで動かない方が得策だと判断し、しばらくの間、この場で待つことに決めた。




