《☆~ 山賊討伐(三) ~》
一行の後方を歩くキャトフィシュが、おもむろに口を開く。
「さすがにショコラ兄さんでも、ご自身のお投げになった石が後頭部に激突してしまったとあっては、さぞかし痛かったことでしょう?」
「おうおう、もちろん痛くねえ訳ねえが、俺さまの身体は人族よりも相当に頑強だからよお、あの程度の衝撃なら大丈夫だぜ! があっほっほほほほ~」
さも誇らしげに大笑いするショコラビスケに、シロミが問い掛ける。
「あのう、お二人はご兄弟でないはずでしょうけれど、どうしてショコラビスケさんはキャトフィシュさんから、ショコラ兄さんと呼ばれておられるのですか?」
「おうおうシロミさん、よくぞ聞いてくれたぜ!」
「あたくしも、理由を知りたいと思いますわ」
「首領もですかい?」
「はい」
「だったら打ち明けねえとなあ。これは昨日のことだがよお、最初から最後までをきっちり説明するとなると、たぶん日が暮れちまうだろうから、どう話すのがいいか、少しばかり悩ましいところでさあ。がっほほほ!」
「でしたらショコラ兄さん、説明は僕にお任せ下さい」
「おうキャトフィシュ、頼むぜ!」
ショコラビスケに代わってキャトフィシュが話す。
昨日、鍛錬を終えた後、二人がお湯に浸かって疲れを癒していた際、キャトフィシュがしみじみとした口調で「僕には兄弟がいなかったので、このように、日々の暮らしをともにする仲間ができて喜ばしい限りです」と言ったところ、ショコラビスケが「この俺にも兄弟がいなかった。だからよお、オイルレーズン女史の探索者集団に面子として加えて貰ってからは、俺はマトンさんを心から兄のように思うようになった。だから今度は、あんたが俺のことを兄だと思ってくれたとしても、俺は一向に構わねえぜ」と申し出た。こうして、キャトフィシュが、ショコラビスケを「ショコラ兄さん」と呼ぶようになったのだという。
話を聞き終えたキャロリーヌは、胸の内で「探索者集団は、面子の結束が大切ですから、よい傾向にあるようですわね」とつぶやく。
一行が黙って山道を進んでいたところ、ショコラビスケの肩の上で、シルキーが鋭く「きっ!」と叫び、この直後、雑草の茂みからガサガサと音が聞こえた。
それでキャロリーヌが号令の言葉を放つ。
「皆さん、お気をつけなさって!」
「急襲かよ!!」
ショコラビスケが、キャロリーヌとシロミを守るようにして身構える。
突如、後方のキャトフィシュが「ううっ!」と呻き声を発した。
ふり返ったキャロリーヌは、キャトフィシュが左の肩に矢を受けて地面に倒れ込むという、酷い光景を目の当たりにする。
曲者は弓を握って、木の上に潜んでいた。キャロリーヌたちに向かって、二の矢が射られる。シロミが俊敏に動き、手に持っていた魔昆布の護符を掲げた。
矢が曲線を描いて、敵の背中に突き刺さる。
「がおー!」
悲鳴を上げながら曲者が落ちてきた。それは獣族だった。
ショコラビスケが飛びついて、その者を抑え込む。
一方、キャロリーヌが急ぎキャトフィシュに駆け寄り、彼の左肩から矢を取り外した上で、治癒魔法を唱えて傷口を塞ぐ。
キャロリーヌは敵の獣族にも治療を施そうとする。
しかしながら、ショコラビスケが渋面を見せながら口を挟む。
「悪党なんかを救ってやるつもりですかい?」
「はい。たとい非道を働いたにしても、怪我を負っておられるお方を放っておく訳にはいきません。そんなことをしては、あたくしたちも、同じ悪党に落ちぶれてしまうでしょうから」
「おうおう、首領キャロリーヌ女史の仰る通りでさあ!!」
得心に至ったショコラビスケは、獣族の背中に刺さっている矢を引き抜く。それに続いてキャロリーヌが治癒魔法を施す。
キャトフィシュが近寄って、一命を取り留めた獣族に問い掛ける。
「キミは山賊集団の一人だね。名前を聞かせて貰おう」
「ピロリンサンテツだべ」
「それはキミの名前ではないだろう?」
「……」
獣族は固く口を閉ざす。
曲者を自由にさせておくのは危険なので、ショコラビスケが頑丈な縄を使って、獣族の身体を拘束する。